東京芸術劇場パフォーマンスやメディアアートの領域で活動するアーティスト・花形槙は、機器や環境を人間の身体にとって最適な形へと設計する思想であるエルゴノミクスに着目する。しかし花形が試みるのは、むしろその構造を反転させ、人間が「技術に対して発⽣する」事態を引き起こすことである。本作は、人間の振る舞いを規定する〈技術〉の典型例としての〈椅子〉に着目し、人間と技術の未分化な存在である〈胚〉を提示するため、「椅子になろうとする」パフォーマンス作品である。
花形自身を含む実践者たちはヘッドマウントディスプレイを装着し、自身の身体がAIによってリアルタイムで椅子らしき図像へと変換され続ける映像を見つめながら、ゆっくりと微細に姿勢を変え、椅子へと〈変態(メタモルフォーシス)〉しようとする。その動きはどこか奇妙で、〈変態〉的ですらあるが、社会や技術に要請され、〈正常〉なる人間で居続けることへの深い閉塞感から、「もう人間ではいられない」という花形の切実な欲望が、観る者をとらえてしまう。
本作は、舞台芸術祭「秋の隕石2025東京」において「隕石(=企画のこと)募集」に採択され、『エルゴノミクス胚・プロトセル』と題した公開実験を経て発展を遂げてきた。本公演となる今回は、AIやモーションキャプチャなど新たなデジタル技術の導入、「凝視させる装置」としての劇場空間へのインストール、観客の身体感覚のさらなる揺さぶりなど、前回上演を踏まえての挑戦的なアップデートが施される。テクノロジーが想像力を拡張する——その過程を、見届けてほしい。
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