読書するマグダラのマリア, 2025, キャンバスに油彩, 50 x 72.7 cm ©小川信治

小川信治 「マリアの梯子」

MAHO KUBOTA GALLERY

#絵画・平面

10月30日開始
  • 0

アーティスト

小川信治
MAHO KUBOTA GALLERYでは、2026年10月30日より、小川信治の新作個展「マリアの梯子」を開催いたします。左右対称の世界で本を読む、二人のマグダラのマリア。その背後では、非対称の風景がゆるやかに広がってゆきます。青い夜空に浮かぶ二つの月。古びた階段の前で振り返る二人の少女。その先には、まだ見えない世界が続いています。像は消え、増え、反転しながら、別の物語へと動き始めます。小川信治は、レオナルド・ダ・ヴィンチやフェルメールをはじめとする西洋の名画、歴史的建築の写真、古い絵葉書や映画の一場面など、すでに存在するイメージをもとに制作してきました。小川が選ぶのは、固有の時間と物語を抱えた、視覚的な強さを持つイメージです。とりわけ名画や映画の一場面は、私たちの集合的な記憶の中に刻まれてきました。だからこそ、人物が消され、別の世界へと変容した後にも、そこには存在しない元の像を呼び戻すことができます。

小川は、それらに「もし、こうだったら」という条件を加えます。人物がそこにいなかったら。建物や月がそっくりそのまま二つ存在したら。画面の外や人物の背後にも見えない世界が続いていたら。小川はこうした条件を「設定」と呼び、その設定を、油彩や鉛筆による精緻な絵画として実現してきました。例えば「Without You」シリーズでは、名画や映画の一場面などから、物語の中心にいた人物を消し去ります。空白となった場所には、その人物の背後にあったはずの風景が描き加えられます。鑑賞者は、目の前には存在しない人物や元の構図を記憶の中から呼び戻しながら、人物を失った世界と向き合います。「Perfect World」シリーズでは、現実には一つしかない人物や建物、月などが二重化されます。あり得ないはずの光景が、初めからそのように存在していたかのような自然さで描かれ、現実とはわずかに異なる、もうひとつの世界が現れます。「Behind You」シリーズでは、一枚の画面の外側にも世界が続いていると考え、絵を円筒のようにつなぎ合わせます。それを別の位置から切り開くことで、元のイメージには存在しなかった、主題となる人物の背後の風景を展開します。一つの視点からは隠されていた世界が、画面の中心へと姿を現します。そして「対称性/非対称性」シリーズでは、鏡像によって時間が止まったような対称世界を作りながら、そこにずれや異質な要素を入り込ませています。完全に閉じていたはずの世界は、周到に置かれた非対称によって再び動き始めます。

小川にとって絵画とは、「設定」を目に見える形にするためだけの手段ではありません。それは、自ら生み出した世界の内部に長い時間とどまり、その世界をより豊かで複雑なものへと育てていくための方法でもあります。描き続けるうちに、当初は意識されていなかった細部が存在感を増し、小川自身へ働きかけて、次の作品を呼び起こします。デジタル上の操作のようにイメージを瞬時に変換するのではなく、人の目と手を通して時間をかけて描く。その時間は画面に蓄積され、あり得ない光景にも、あたかも実在するかのような現実感と重みを与えます。そして、人の手によって変容したイメージには生命が宿るかのように、やがて作家の意図を離れ、固有の意思を持つ生き物のように、自律的に展開していきます。

本展では、鏡像となったマリア、奥へと立ち上がる階段、異なる仕方で人物が二重化された街の風景、夜空に並ぶ二つの月など、現実のすぐ隣にある、もうひとつの世界が描き出されます。《読書するマグダラのマリア》では、失われた祭壇画の一部として残されたマリアを中心に、別の可能性を持つ世界が描かれます。鏡像のように向き合う二人のマリア。その足元に置かれた多面体と、左右の対応を失い始めた遠景が、凍りついた対称世界を静かに揺らします。《マリアとマリア》では、古い階段の手前で振り返った女性が、その瞬間に鏡像化されています。二人のマリアの背後で、階段は画面の奥へ進みながら、斜めに立ち上がる梯子のようにも見えます。この階段はどこまで続き、マリアは私たちをどこへ誘うのでしょうか。展覧会名「マリアの梯子」は、この作品に描かれた階段の形と、今回の新作にマリアと階段が繰り返し現れたことから生まれました。

小川信治の「設定」は、個々の作品を作るための規則であると同時に、作品から別の作品へ、作家の思考から鑑賞者の想像へと世界を広げていくための接続装置でもあります。人物が消え、像が増えた世界を前にすると、私たちは「もとの絵はどのようなものだっただろう」と記憶をたどり始めます。それは、記憶の中で答え合わせをするような楽しみにも似ています。しかし、元の像を思い出したところで鑑賞は終わりません。記憶の中の像と目の前の新しい像を行き来するうちに、描かれていない場面や物語が、一人ひとりの中に生まれていきます。小川は、人はそれぞれ自分だけの「梯子」を持ち、他者の梯子を登ることはできないと語ります。作品との出会いを起点に、鑑賞者は自らの記憶や経験を携えて、小川の世界へと招き入れられます。そして作品と作品のあいだを歩きながら、それぞれの梯子を登り始めるのです。

スケジュール

2026年10月30日(金)〜2026年11月28日(土)

開館情報

時間
12:00 〜 19:00
休館日
月曜日、日曜日、祝日
観覧料無料
展覧会URLhttps://www.mahokubota.com/ja/exhibitions/5601/
会場MAHO KUBOTA GALLERY
http://www.mahokubota.com/ja/
住所〒150-0001 東京都渋谷区神宮前2-4-7 1F
アクセス東京メトロ銀座線外苑前駅2出口より徒歩6分、東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A2出口より徒歩11分
電話番号03-6434-7716

0件の投稿

すべて表示

まだコメントはありません

Tokyo Art Beat Mail Magazine

アートの最新情報を、毎週お届けします。
登録は無料です。