最適化や情報消費の高速化、AIによる生成などを背景に、「伝える」ことは、より速く、より簡単に、より効率よく行える「Instant」なものになりました。その一方で、伝達される内容や印象は均質になり、その背後にある物質の手触りや、そこに費やされた時間の痕跡は、次第に見えにくくなっています。
本展が着目するのは、そうした「Instant」なあり方からこぼれ落ちるものです。
展覧会タイトル『(Un) Instant』には、現象が立ち現れる「その瞬間」を意味する “an instant” と、「即席ではない、消費的ではない、時間をかけてつくられた」という意味を込めた “un-instant” が重ねられています。瞬間そのものを見つめることと、その瞬間を生み出すまでに積み重ねられた物質や時間に目を向けること。その二つの視点から、私たちを取り巻く「消費的なインスタント」のあり方を捉え直します。
ガラスを曲げ、内部を真空にし、ガスを封入し、電気を通すことで初めて立ち上がるネオンの光。管の内側で絶えず変化し続けるプラズマ。偶発的に揺らぐブラウン管のノイズ。そこには、固定された一枚の像には回収できない時間と、画面越しのイメージには置き換えられない物質的な現象があります。
市川が「現象の標本」と捉えるそうした実践は、そうした現象をある一瞬の姿として固定するのではなく、現象が起こり続ける条件そのものを作品として差し出す試みです。そこでは完成されたイメージだけではなく、光や電気、物質がその場で変化し続けること自体が、鑑賞の対象となります。
そして、その実践を象徴するメディウムであるネオンは、都市空間のなかで言葉やイメージを伝える広告看板として広く用いられてきた一方、その光や物質性そのものを見つめるアートの素材にもなってきました。「何かを伝えるための光」と「光そのものを見つめるための作品」。その二つのあわいにあるネオンを通して、本展は広告とアート、そして「伝える」ことの境界にも目を向けます。
その瞬間にしか立ち現れないものと、時間をかけることで初めて生まれるもの。その双方を見つめながら、『(Un) Instant』は、私たちの知覚と「伝える」ことの現在を問い直します。
まだコメントはありません