kudan houseかつて山水画や枯山水の着想源となった山水は、20世紀初頭まで日本人の生活文化に広く根ざした世界観でした。そこでは、人間と自然が分離されることなく、万物の流転の中に主客未分のまま存在すると考えられています。西洋近代的な価値観が行き詰まり、「コモン」や「ケア」といった概念が注目される今、山水の思想は現代の生活・社会を見つめ直すためのヒントに満ちているように思われます。
本展は、前近代(プレモダン)の山水をただ復興させるのではなく、現代の視座から更新することを試みます。伝統的な中国の画家は険しい山崖や肥沃な平原といった大陸の地質から想を得ましたが、本展のアーティストは建物とインフラで覆われた都市をフィールドに活動しています。都市で世界との関係を結び直すためには、都市の表層を凝視し、地層より手前にある身近な事物へいかに想像力を巡らせるかが鍵となるでしょう。奇しくも新型コロナウイルスの流行は、私たちに日々の生活と丁寧に向き合い、見えない他者を想像することの大切さを気づかせました。まさしく今日の社会に求められる都市生活者の想像力――それが「アーバン山水」です。
kudan houseは、1927年の創建時から物語を紡いできた歴史的建造物を受け継ぎ、現代における場の価値を再編集するという考えのもと運営を行っています。kudan houseを象徴する洋館のスパニッシュ様式や耐震壁構造、庭の実用的な構成は、日々の暮らしを大切にしてきた人々の思いを今に伝えており、身近な事物への想像力を問う本展のコンセプトにも通じています。
本展は、現代アーティストによる作品と戦前から愛用されてきた家具、重厚な洋館とモダンな庭、プライベートな敷地とパブリックな都市空間をシームレスにつないでみせることによって、主客の境界をぼかし、鑑賞者を山水の世界へ誘います。