VACANT ROOMVACANT ROOMは、大谷陽一郎とサガキケイタによる二人展「Konstellation」を開催いたします。Konstellationは天体相互の位置関係を原義とし、転じて、複数の要素の配置や結びつきから生じる状況を意味します。ヴァルター・ベンヤミンもまた、この語を個々の要素の固有性を保ちながら、その関係から全体を捉える認識論的なモデルとして用いました。本展では、モノクロームの作品を中心に、白と黒を展示空間の視覚的な基調とします。これにより、色彩の作用が相対的に抑えられ、画面を構成する視覚要素と、それらが全体像を形づくる過程がより明確になります。さらに、こうした展示構成は、夜空に点在する天体がその位置関係によって一つの星座として把握されるというKonstellation本来の意味とも呼応します。
大谷陽一郎は、漢字を線的な秩序から解放し、画面上に配する視覚詩を制作してきました。個々の漢字は形態・音韻・意味を備えた読解可能な記号である一方、画面全体においては線や点、さらには画素に近い視覚的単位として機能します。文字群は隣接関係を越えて複数の方向へと結びつき、鑑賞者の視線の移動に応じて異なる連関を形成します。近距離では一つひとつの文字の形態や意味が前景化し、距離をとると、それらの集積がより大きな図像として把握され、一つの画面のうちに異なる視覚的尺度が併存します。本展で大谷は、波紋を主題とした新シリーズを発表します。一点から生じた円環が周囲へ伝播し、別の円環と交差しながら広がる波紋の構造は、文字同士の関係が画面全域へと展開していく大谷の制作方法と呼応しています。ここで波紋は描写の対象であると同時に、文字の集積から全体像が成立していく過程を示す構造でもあります。
サガキケイタは、美術史上広く知られた古典絵画などの既存図像を参照し、その像を製図ペンで即興的に描く無数のキャラクターによって再構成してきました。遠距離では一つの明確な図像として把握される画面は、接近するにつれて膨大な微視的図像の集合へと分節され、それぞれが独立した形態と内容をもつ像として顕在化します。既知の全体像を出発点とし、鑑賞距離の変化によって細部が顕在化する構成には、サガキの制作における全体と部分の流動的な関係が表れています。本展でサガキは、髑髏を主題とする古典絵画を題材とした新シリーズを発表します。髑髏は、memento moriの伝統やvanitas絵画のなかで、死や生の有限性を想起させる代表的なモティーフとして用いられてきました。サガキの作品では、こうした歴史的象徴性を帯びた図像が、大衆文化的かつ戯画的なキャラクター群によって構成されます。そこでは、髑髏というモティーフに蓄積された歴史的意味と、それを構成する個々のキャラクターの形態や内容が、一つの画面のなかに併存しています。
二人の作品は、部分から全体へ、全体から部分へという構成の方向において対照をなします。大谷においては、個々の文字から生じる連関の集積によってより大きな像が形成されるのに対し、サガキにおいては、あらかじめ設定された全体像への接近を通じて、それを構成する無数の形象が次第に顕在化します。こうした方向性の違いをもちながら、いずれの作品においても鑑賞者は距離と視線を変化させることで、細部の認識と全体像の把握とのあいだを往還します。そこでは、それぞれの形象が固有の形態や意味を保ちながら全体像を成り立たせると同時に、全体像もまたそれらの形象のあり方を規定します。部分と全体は相互に規定し合い、その関係を通じて像の意味と構造が形成されます。
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