ヨコハマトリエンナーレ2020が開催中:いま考えたい5つのキーワードから

ヨコハマトリエンナーレ2020が7月17日に開幕。国内外67組のアーティストが横浜に集結する

poster for Yokohama Triennale 2020 “Afterglow”

「ヨコハマトリエンナーレ2020『AFTERGLOW―光の破片をつかまえる』」

横浜、神奈川エリアにある
横浜美術館にて
このイベントは終了しました。 - (2020-07-17 - 2020-10-11)

In フォトレポート by Art Beat News 2020-08-19

2001年にスタートした、3年に1度の国際芸術祭「ヨコハマトリエンナーレ」。コロナ禍において続々と芸術祭が中止、延期になる中で開催を決定し、感染症対策を徹底しながら7月17日に開幕する。チケットは日時指定の予約制。

今回のトリエンナーレのアーティスティック・ディレクターを務めるのは、インド拠点の3名からなるアーティスト集団「ラクス・メディア・コレクティヴ」。ラクスのキュレーションは、「テーマ」ではなく、「ソース」から発想することを特徴としているが、この「ソース」とは時代や文化的背景の異なる実在の人物の生き方や考え方を例示する資料であり、会話のネタとなり、思考の素材となるもの。ラクスはこれを開幕前の段階からアーティストや関係者と共有し、鑑賞者へも約90ページにおよぶ「ソースブック」が事前に共有されるというユニークな仕組みをとっている。

ラクス・メディア・コレクティヴは展示の鍵となる言葉として、「独学」(自らたくましく学ぶ)、「発光」(学んで得た光を遠くまで投げかける)、「友情」(光の中で友情を育む)、「ケア」(互いを慈しむ)、「毒」(否応なく存在する毒と共存する)の5つの言葉を提示。その中でも「毒」のキーワードについて、6月の会見で蔵屋美香(同トリエンナーレ組織委員会副委員長)は「世界の各所、人と心の中に“毒”はありますが、それらを排除するのではなく、共存しようという考えです。“毒”の中でどのように自分を輝かせることができるかは、新型コロナウイルスとともにいる私たちにも同じことが言えると思います」と、現在を予見するかのようなキーワードだと述べていた。

出品アーティストは、ハイグ・アイヴァジアン、ファラー・アル・カシミ、モレシン・アラヤリ、ロバート・アンドリュー、青野文昭、新井卓、コラクリット・アルナーノンチャイ、ローザ・バルバ、タイスィール・バトニジ 、イシャム・ベラダ、ニック・ケイヴ、陳哲(チェン・ズ)、ジェシー・ダーリング、マックス・デ・エステバン、エヴァ・ファブレガスなど約70組。ヴェネチア・ビエンナーレ参加をはじめ国際的な活動を行いながらも日本では初展示となるアーティストが多く、会場を見て回るだけでも新たなアーティストを知る楽しみがある。

複数会場で行われてきたヨコトリだが、今年は横浜美術館、プロット48、日本郵船歴史博物館の3拠点で作品を展示。このレポートでは作品点数の多い横浜美術館、プロット48の展示作品を中心に紹介していく。

横浜美術館

もっとも展示作品点数が多いのが、横浜美術館。会場入り口すぐの大きな吹き抜けホールでは、ニック・ケイヴの大規模な作品《回転する森》(2016)が展示される。本作を構成する大量のガーデンスピナーは周囲の光を取り込んできらきらと美しく光るが、近づいて見るとピストルなどのモチーフが紛れ込んでおり、どこか不穏な印象を残す。

プレス会見にて《回転する森》と同じく注目作品として紹介された、シリコンやウレタン、ゴムなど柔らかい素材で構成されるエヴァ・ファブレガス《からみあい》や、見た目は美しいが強い毒性を持つ植物をテーマとしたインゲラ・イルマンの《ジャイアント・ホグウィード》も同美術館で展示されている。どちらも大型作品ならではの迫力を会場で体験してほしい。

横浜で制作した新作に近作を交えたインスタレーションを発表するのは、インドを拠点とするレーヌカ・ラジーヴ。他者とのコミュニケーション手段として制作されるラジーヴの作品には、セクシュアリティやジェンダー、家族という概念や、他者との関係性への言及を読み取ることができる。さまざまな生命体らしきモチーフからなる作品は、《サイボーグは敏感》《自閉症のユートピア》《国際的最下層に属する食料提供者の最上から降り注ぐ力》など、内容を想起させるタイトルを照らし合わせて見るといっそう楽しめるだろう。

インスタレーションやサイト・スペシフィックなプロジェクトを通して、社会構造や空間にまつわる考察を行うズザ・ゴリンスカの《助走》は、靴を脱いで体験する作品。古い社会構造を解体し、新しく作り直す意味が込められているというが、ふかふかとした低反発性フォームなど柔軟混合の歪な形の床面から、どんな意味を読み取れるだろうか?

今回の参加者の中で、主に日本を拠点とするアーティストは約10人。個人の生活や経験、記憶をインタビューや記録物などを通してたどり、歴史や社会といった大きな文脈との関係性を見つめる飯山由貴は、自身の妹が持つ幻聴、幻覚を起点とした作品《海の観音さまに会いに行く》 を出品。2019年に逝去した佐藤雅晴の遺作となった絵画シリーズも展示されている。

家族、記録、失われたものの存在をテーマに、刺繍を施した布を写真やドローイングの上に重ねた平面のインスタレーションや、壊れた陶器の破損部分を絹糸で縫い直す「修復シリーズ」を発表する竹村京は、取材時には会場で「修復」の公開制作中。いま、まさに再構築していくというひたむきな過程は、ともすれば感傷的に捉えられるテーマに迫力をもたらしていた。

なお、今回のヨコトリのキャプションは、作品解説とモノローグが混ざり合ったような独特の形式で、じっくり目を通すことで作品の理解がより深まっていく。ソースブックなどのテキストと作品が共存するスタイルはここでも見ることができる。

プロット48

横浜美術館から徒歩8分ほどの場所にあるのが、旧アンパンマンミュージアム跡地のプロット48。このメイン会場ではエレナ・ノックス、イシャム・ベラダ、川久保ジョイ、ファーミング・アーキテクツ、刷音(シュアイン)、陳文偉(デニス・タン)、鄭波(ジェン・ボー)、陳文偉(デニス・タン)らが作品を展示している。

トイレを含む会場の広範囲で展開されるのは、エレナ・ノックスの《ヴォルカナ・ブレインストーム(ホットラーバ・バージョン)》。真に種の継続を可能にするため、エビのための「ポルノグラフィー」をつくることで閉ざされた生態圏における官能性と生存について探る本作は、多種多様な試みにそのユーモアが光る。

ノックスと同じく性に迫るのは、2019年には京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAで個展を開催した鄭波(ジェン・ボー)。台湾と日本でのリサーチに基づく、クィアな植物と人々との交流を描いた「Pteridophilia(シダ性愛)」と題したシリーズを発表している。

なお、プロット48の飯川雄大の作品など事前のオンライン予約を受け付けている作品もいくつかあるため、注意してほしい。

数年にわたる準備期間を経て、「コロナ禍でも生身の芸術体験を」という思いのもと開催が決定した今回のヨコトリ。8月に行われた文化庁の連続ウェビナーの第1回「『コロナ以降』の現代アートとそのエコロジー」にて、ジュード・チェンバース(クリエイティブ・ニュージーランド国際事業部⻑)は、人の移動が制限されるなかでも「作品、コンセプトは旅ができる」と述べた。

海外渡航が難しい今、世界各地で活動するアーティストの作品が集まる国際展はパンデミック以前の生活を思い出させ、懐かしく溌剌とした刺激を受ける。そしてそこから翻って、パンデミック後の美術展示や国際展のあり方も想像させるはずだ。

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