性差(ジェンダー)を日本史から紐解く:国立歴史民俗博物館の展覧会をレポート

国立歴史民俗博物館で10月6日〜12月6日まで開催中。「性差(ジェンダー)を日本史」展をレポート

poster for Gender in Japanese History

「性差の日本史」

関東:その他エリアにある
国立歴史民俗博物館にて
39日後終了

In Main Article 1 フォトレポート by Art Beat News 2020-10-06

日本の歴史においてジェンダー(文化的・社会的に形成される男女の差異)はいつ生まれ、どのように変化してきたのだろうか? 千葉県佐倉市にある国立歴史民俗博物館(以下、歴博)で、多数の資料からそれらの問いを紐解く展覧会「性差(ジェンダー)の日本史」が開幕した。会期は10月6日〜12月6日。

じつは2008年よりジェンダーに着目した研究活動を行なってきた歴博。本展の研究対象は古代から現代まで、多種多様な資料や作品で「政治空間における男女」「仕事とくらしのなかのジェンダー」「性の売買と社会」という3つのテーマを7章で紹介しているが、これは「20名を超えるメンバーとの共同研究の結果」だと展示代表の横山百合子(国立歴史民俗博物館研究部教授)は話す。展示を構成するうえで大切にしたことは、「日本のなかで男女という区分がどのように生まれ、変化してきたかを見せるということ、ジェンダーの区分と抑圧の中で無名の人々の声に耳を傾けること」だという。

展示のプロローグと第1章は、古墳から出土した玉類や男女混合の埴輪などが展示される「古代」。男女が分け隔てなく政治参加した古代には、卑弥呼をはじめとした女性首長が3〜5割いたとされる。ところが4世紀以降になると、しだいに男性優位になり、律令国家以降「男・女」の区分が生まれた。中世から現代までの神祇祭祀は男性中心だが、古代の地域社会ではどうだったのか?その答えもこの章で示されている。

第2章〜4章も引き続き中世の男女の役割に焦点を当てる。「家」や「宗教」を切り口とした第3章では、仏教界にみる女性差別観の受容と深化などのテーマも興味深い。

働き方、くらし方をめぐるジェンダーの問題は現代では大きな社会問題になっており、その議論の中では、男女の分業が生物学的特性によって決定されるかのような言説も少なくない。しかし、歴史を遡るとその分業が決して固定的なものではないことがわかる。第4章「仕事とくらしのジェンダー ─中世から近世へ─」では、屏風や写真などを通して、男性の仕事と女性の仕事、ひとては私たちの「常識」を相対化する。

本章で注目のひとつは、早乙女(田植えをする女性)のイメージと実態のほか、鍬形蕙斎《近世職人尽絵詞》と歌川国直《花容女職人鑑》の対比。当時、女性は職業身分として認められることがなかったが、男性職人がメインの前者に対して後者では多様に働く女性たちの姿が見える。また、《近世職人尽絵詞》に登場する数少ない女性(遊女)は、本展後半の重要なキーワードにもなってくるので注意して見てほしい。

一般的に、近世は表と奥、公と私という区分のもと、江戸城や大名屋敷などの政治空間では女性は奥に閉じ込められる時代と考えられてきたが、近年の研究によって正妻や奥女中が果たす政治的機能の実態が解明されてきた。政治空間から女性を排除する決定的な原因となったのは、近代の明治憲法体制。第5章「分離から排除へ ─近世・近代の政治空間とジェンダーの変容─」では、資料によってその転換点が明らかになる。


本展の3つのテーマのうちのひとつが「性の売買と社会」だが、これは歴史展示としては前例のないもの。性の売買こそが、その時代のジェンダーと非対称性に大きく左右され、社会の特徴を大きく反映するという観点から本展では重要視されている。

例えば「売春は最古の女性の職業」という通説があるが、果たしてどうなのか? 日本で売買春が始まったのは9世紀後半からだが、第6章ではそうした性の売買の歴史を、それぞれの時代の特徴や社会の構造と関係づけながら理解していく。本章で印象的なのは、遊女たちが日々を綴った日記。そこには新吉原遊郭での厳しい生活実態と、放火を起こし抱え主の不当を訴えるまでの思いなどが書かれているが、書くことで状況を冷静に見つめ、慰めになっていたことも想像させる生々しい筆致となっている。

そのほかにも遊郭を支える金融ネットワーク、買う男たち、遊郭と地域社会、娼妓の「自由意志」のカラクリまで、現代にまで続く性の売買の背景を膨大な資料で浮き彫りにする。

最終章である7章は、生業と職業、教育資格と職業・職業婦人、近代官僚システムの中の女性、炭鉱労働者としての女性に焦点を当てる「仕事とくらしのジェンダー ─近代から現代へ」。女性の「職業」の誕生、労働者としての女性、アジア太平洋戦争後の社会の3パートで構成し、職業と労働との関係や、専門職であっても「女性性」が求められたあり方を近代という制度のなかから読み直す。

世界経済フォーラム(WEF)が世界のジェンダー不平等を分析した「世界ジェンダー・ギャップ報告書」の2019年度版で、日本は153カ国中121位と過去最低(G7で最下位)の順位を記録したが、本展が生まれた背景にはそうした状況がある。歴博館長の西谷大は「今回歴博でジェンダーの展示をする背景には、過去のジェンダーの歴史を網羅するのではなく、なぜジェンダーの問題が生まれたか、問題を直視し当事者として考えたいという意図がある」と語るように、本展ではなぜ現代の不均衡が生じているか、その一端を歴史から実感することのできる貴重なものとなっていた。今後、性差の多様性やフェミニズムにもフォーカスした続編が行われることも期待したい。

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