公開日:2020年11月13日

大統領選とアート、ウォーホル贋作の見分け方、文化遺産返却など:週刊・世界のアートニュース

ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目ニュースをピックアップ

いま、世界のアート界では何が起こっているのか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。今回は、10月31日〜11月6日のあいだに世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「アメリカ大統領選挙とアート」「続くコロナの影響」「できごと」「おすすめの本、ビデオ」の4項目で紹介する。

ビルバオにあるジェフ・クーンズの作品《Puppy》 出典:Wikimedia Commons(Erwin Verbruggen)

アメリカ大統領選挙とアート

この記事を執筆している11月6日現在、選挙から3日目だが、バイデンの優位が伝えられるも、未だ最終的な結果は出ていない。今週は大統領選挙とアートについてのニュースから。

◎アートはいかにして政治的変化を導くか?
ブルックリン美術館のロビーは選挙当日には投票所のひとつになり、そこにはエド・ルシェの《OUR FLAG》という巨大絵画がかかっている。それをコミッションしたのが著名音楽プロデューサーでヘッドホン会社Beatsの創業者ジミー・アイオヴィン。このArtnetの選挙特集記事では、その2人のロングインタビューを掲載。個人的にも、これまでエド・ルシェの作品はクールではあるが、なんとなくピンとこなかった。ただこの選挙一色の週に逸話がつまったこの対談を読んで、あらためてアートと歴史、社会のつながりの重要さ、その周りの興味深い人間関係などを感慨深く読むことができた。そしてこの作品、この逸話の記憶がルシェの作品全体に積み重なっていくことで、今後、自分のルシェ作品の見方に大きな影響を与えるのは間違いないだろう。
https://news.artnet.com/the-big-interview/jimmy-iovine-ed-ruscha-interview-1920257

◎大統領候補者と文化支援
大統領選挙の前日11月2日に公開された記事。両大統領候補と副大統領候補のこれまでのアートとの関わりをまとめてくれている。バイデン、ハリスは文化支援的、トランプ、ペンスはよくて中立、どちらかというと文化支援削減的。文化以外への彼らの姿勢、政策に沿った順当なものだと言えるだろう。
https://news.artnet.com/art-world/candidates-art-platforms-1919554

◎アート作品でリラックス
例年は選挙日当日の夜遅くに結果がでることが多いが、今年は特にコロナの影響で当日投票所に行くことを避け、事前の郵送での投票が急増。それらの開票作業や、そもそも当日消印有効のものが到着するまで待つ必要があるため、結果が出るまで2日以上という異例のケースになっている。そんな状況下で、こういうアート作品でも眺めてリラックスしましょうという記事。仏像、ハドソンリバー派の風景画からブライス・マーデン、モネなどなど。
https://news.artnet.com/art-world/14-artworks-to-soothe-your-frayed-nerves-1920625

◎劇場や美術館の予算確保のために
ニュージャージー州のジャージーシティでは、今回の大統領選挙と同時に行われた直接投票で、新しく不動産などにかかる資産税($100の資産につき一年に0.5セント、つまり0.005%)を導入、それを独自の予算源として、劇場や美術館などにあてるという政策が64%の賛成で通過。年間約1〜2億円の税収を見込む。コロナの影響で4月にはこの増税案は直接投票から削減されそうになったが、これら文化施設は一般以上に経済的ダメージを受けているということで、投票に残ることになり、成否が心配されていたが無事に通過。
https://www.nytimes.com/2020/11/04/arts/jersey-city-arts-tax.html

◎記念碑は移築ならず
上記ジャージーシティの例以外にも、マリファナの合法化や税金など、32の州で124の案件が直接投票にかけられている。その中でも文化にかかわるものとして、ヴァージニア州やアーカンソー州のいくつかの郡では、南北戦争時代の南部同盟にまつわる記念碑を移築することが投票にかけられたが、すべて否決された。ただ、ミシシッピ州はこれまで全米で唯一、州旗に白人至上主義者に好まれる象徴でもある南部同盟のシンボルが使われていたが、新しく州の花であるモクレンをあしらったデザインが投票にかけられ、賛成多数で可決された。
https://hyperallergic.com/599900/how-us-voters-weighed-in-on-arts-and-culture-on-their-2020-ballots/

◎大統領選から見る、アートと政治
手前味噌で恐縮だが、アメリカでは選挙に向け全国民が多様な形で選挙活動に参加するなか、アーティストや美術館、ギャラリーがどのように大統領選挙に働きかけているかを筆者が日本語で書いた記事。特にアーティストのジェニー・ホルツァーの活動は規模が大きくかなり踏み込んだものになっており注目に値する。
https://bijutsutecho.com/magazine/insight/22926

続くコロナの影響

◎閉館に反発
ヨーロッパではコロナ第2波の影響でロックダウンの指示が拡大しており、これまで報道されていたようにベルギーで少なくとも11月19日まで、フランスは12月1日まで、今回新たに英国で11月5日から12月2日まで主な美術館が閉館されることになった。ドイツでは地方政府によっては閉館を指示しているエリアもあるが、美術館関係者はさらなる財政難を引き起こすとして反発。
https://www.artnews.com/art-news/news/museum-closures-covid-second-wave-1234575599/

◎電話ボックスでアートを見る
コロナで屋内展覧会がなかなかやりにくい中、ニューヨークに進出したメキシコ最大のコマーシャルギャラリーであるクリマンズットの企画でミッドタウンの6th Ave沿いの元電話ボックスの背面を使ってアート展示が行われている。MoMAやロックフェラーセンターがある街の中心地。リクリット・ティラバーニャやアン・コーリアー(Anne Collier)など12人が参加。来年1月3日まで。展覧会後、電話ボックスは市が撤去し公共wifiを提供するキオスクに変わる。
https://www.artnews.com/art-news/artists/titan-phone-booths-exhibition-kurimanzutto-damian-ortega-1234575965/

◎カリフォルニアで美術館のルール緩和を求める動き
カリフォルニア州の美術館は、コロナ禍での閉館や再開についてアメリカでも特に厳しいルールが課されており、映画館や教会などと同じ規定になっている。それを一段緩い、モールや店舗などの規定に変更してほしいと美術館関係者と各市の市長が連携して州政府に働きかけている。
https://news.artnet.com/art-world/california-arts-professionals-lobbying-state-ease-restrictions-museums-1921023

できごと

◎略奪された文化遺産が返却へ
フランスが27点の文化遺産をベナンとセネガルに返還することを元老院で可決。現在パリのケ・ブランリ美術館にあるもので、19世紀にフランス軍によって略奪されたもの。来年にそれぞれの国の博物館に返還される。
https://www.artnews.com/art-news/news/france-benin-senegal-restitution-1234575902/

◎大規模デモのシンボルをつくったデザイナーに聞く
ポーランドでは人工中絶は元々制限されていたが、胎児に先天性異常がある場合でも違憲と裁判所が判断。制限がさらに厳しいものに。それに反発して、共産主義離脱の89年以来の大規模抗議デモが続いている。参加者の多くは女性だが、赤い稲妻がデモのシンボルになっており、この記事ではそのデザイナーに話を聞いている。
https://news.artnet.com/art-world/meet-the-artist-behind-the-lighting-bolt-1921095

◎セクハラで解雇
先週の記事でセクハラなどで職務停止になっていたガゴシアンギャラリーのデジタル部門を担当していたディレクターのサム・オルロフスキー(Sam Orlofsky)が調査の結果、解雇に。
https://observer.com/2020/11/gagosian-employee-sam-orlofsky-fired-misconduct/

◎村上作品が小児科病院を彩る
ワシントンDCの国立小児科病院のCTスキャナーなどがある部屋全体を、村上隆による花のモチーフの作品で覆ったプロジェクトが発表された。ガゴシアンギャラリーと、全米でビジュアルアートの力で子供達を癒やすことをミッションにする非営利のRxARTによる企画。
https://www.complex.com/style/2020/11/takashi-murakami-childrens-national-hospital-room

◎警察の暴力を可視化
去年のホイットニービエンナーレにも出ていたロンドンベースのフォレンジック・アーキテクチャー(Forensic Architecture)らが米国でのBLMをはじめとするプロテストに対する警察の暴力を可視化するインタラクティブマップを作成。ジャーナリストや医療関係者への攻撃だけでも250例あったとのこと。
https://hyperallergic.com/598414/forensic-architecture-bellingcat-black-lives-matter-protests-map/

◎クーンズ作品もマスクを着用
ビルバオにあるジェフ・クーンズの草花で覆われた巨大作品の「Puppy」が青と白の花でマスクをかぶることに。今後数週間で満開の見頃になるそう。
https://www.artsy.net/news/artsy-editorial-jeff-koonss-puppy-sculpture-dons-floral-face-mask

◎ウォーホル贋作の見分け方
世界的に人気も高く、また制作方法がシルクスクリーンであることも影響して、ウォーホルは贋作がとても多いとのこと。この記事では専門家が注意点を5点解説してくれている。1.人筆感がないものに注意 2.マリリンモンローのプリント作品に注意 3.状態が良すぎるものに注意 4.毛沢東、花、死刑台のキャンバス作品に注意 5.ドローイングはさらに注意。
https://news.artnet.com/opinion/how-can-i-tell-if-my-warhol-is-fake-here-are-five-tell-tale-clues-according-to-an-expert-1920633

おすすめの本、ビデオ

◎名作をつくってみよう
マリーナ・アブラモビッチ、ジョージ・コンド、KAWS、ミカリーン・トーマスなど17人の有名作家のキャリア、作品を紹介し、実際にそれらの作品がスタジオでどういう材料で、どのようにつくられているかを説明する「Open Studio」がファイドンから出版された。家にこもりがちな昨今、読者が実際にまねてやってみることができる本。
https://www.artnews.com/art-news/artists/open-studio-book-phaidon-marina-abramovic-wangechi-mutu-1234575916/

◎タレルが語る
ジェームス・タレルが、彼の有名な作品シリーズの一つである「Skyspace」(天井が四角く切ってあってそこから移り変わる空の色を眺める作品)の最初期のもの「Second Meeting」(1989)を訪ねて作品について語るビデオ。大統領選挙にやきもきする日が続くこんな週にこそ、タレルの空の作品に思いを馳せるのはどうだろう。

Kosuke Fujitaka

Kosuke Fujitaka

1978年大阪生まれ。東京大学経済学部卒業。2004年、Tokyo Art Beatを共同設立。08年より拠点をニューヨークに移し、NY Art Beatを設立。アートに関する執筆、コーディネート、アドバイスなども行っている。