フランシス・ベーコンって本当はどんな人だった?:神奈川県立近代美術館 葉山「フランシス・ベーコン バリー・ジュール・コレクションによる」の見どころをレポート

神奈川県立近代美術館 葉山で開催中の「フランシス・ベーコン バリー・ジュール・コレクションによる」は、ベーコンの生々しさに迫る展覧会

poster for Francis Bacon The Barry Joule Collection of Artworks from Francis Bacon Studio, 7 Reece Mews London SW7 U.K.

「フランシス・ベーコン バリー・ジュール・コレクションによる」展

横浜、神奈川エリアにある
神奈川県立近代美術館 葉山にて
このイベントは終了しました。 - (2021-01-09 - 2021-04-11)

In Main Article 3 フォトレポート by Art Beat News 2021-03-26

「フランシス・ベーコン」と聞いて、どんなイメージを思い浮かべるだろうか?
恐ろしく美しいと言われる作品やその筆使い、あるいは具体的に「叫ぶ教皇」シリーズ、はたまた、オークションで作品が高額落札される20世紀を代表する画家のひとりとして。神奈川県立近代美術館 葉山で4月11日まで開催中の「フランシス・ベーコン バリー・ジュール・コレクションによる」展は、そのどれとも異なる生々しいベーコン像を見せる展覧会と言えるだろう。

本展に並ぶのは、ベーコンがつくらないとされていた素描や、参照していた新聞・雑誌などの印刷物とそこに描かれた線や図、そして、そのほとんどを破棄したと言われていた、シュルレアリスムに傾倒した若き日の絵画といった、ベーコンが生前決して世に出すことのなかった「秘密」たち。死の直前までベーコンがひそかに手元に残した初期絵画作品や素描、資料など約130点が日本で初公開されている(4月20日から松濤美術館に巡回予定)。

本展担当学芸員の髙嶋雄一郎は本展を「特異な展覧会」として、次のように語る。「本展には、ベーコンを象徴するような代表作や傑作は並んでいません。その代わりに、ベーコンのアトリエから出てきた資料類からは“あの代表作につながっている”と思えるようなアイデアソースや、“ひょっとしたらベーコンはこんな絵を想像していたのかもしれない”と推測できるものがある。結果的に、オルタナティブで想像を刺激する展覧会になっているのではないでしょうか」。2013年に東京国立近代美術館で行われた「フランシス・ベーコン」展以来、8年ぶりとなる本展は、いわばベーコンの周縁からベーコンの輪郭を浮き彫りにするものになっている。

今回、作品や資料を提供したのは、在りし日のベーコンと関わりのあったバリー・ジュール。ジュールは1978年のベーコンとの出会いから92年に画家が亡くなるまで親しく交流し、ベーコンがマドリッドで客死する10日前、彼が手元に残していた作品や資料など約2000点を譲り受けたという。「ひそかに手元に残していた作品や資料を展示するということは、ベーコンにしてみたら不本意かもしれません。ただ、約2000点もの作品や資料をベーコンがジュールさんに差し上げた際、ジュールさんがそれらをどうしたらいいかを聞いたら“どうしたらいいかわかってるだろう?”とベーコンは言ったのだそうです。破棄してほしいならば、ベーコンははっきりとそう言っただろうし、以前には実際に作品を破棄するのを手伝ったりもしていた。でもそう言わなかったことは、きっと取っておけということなのだろうとジュールさんは解釈したようです」と、髙嶋は話す。

会場冒頭に展示されるのは、どこかミステリアスな「Xアルバム」のシリーズ。その名は、もとは写真用だったアルバムの表紙と裏表紙に「X」のマークが描かれていたことに由来し、のちの連作につながるゴッホのイメージや、著名な教皇像と関連するような叫ぶ教皇のイメージも含まれている。「Xアルバム」は油彩画の準備段階として描かれたものか、画面の再現なのか、ベーコン以外の人物の手が加わったものなのか、まだまだ謎に包まれた作品群だ。

独学で絵画を生み出したベーコンは、作品の下絵となるドローイングは描かないと言われてきた。しかし、髙嶋は次のように言う。「ドローイングとは、描くために実際に筆を走らせるということだけではなく、飛び立つための助走のようなものではないでしょうか。極端に言ってしまえば、ベーコンにとっては、何かしらの図像を認識して、選んで、スクラップして手元に置いていることがすでにドローイングだった。さらにメープルソープの作品の上に格子状の線を描いたり、有名人のポートレイトを切り貼りしたり……我々には目的のわからないそのような行為は、油彩画を描くための準備運動、ルーティンのようなものだったのかもしれません」。

人間、とりわけ人体や筋肉や動きへの関心は、本展の資料群からはっきりと読み取ることができる。そしてそれが、後の飛躍的な絵画の展開への助走ととらえるのは、きわめて自然なことにも見えてくる。

本展でもっとも感傷を呼び起こすのは、10点の絵画が並ぶパートだろう。年表によると、ベーコンは25歳(1934年)と34歳(1943年)の2度にわたって作品の大半を破壊し、世に知られるベーコンの代表作はその2度目以降に生み出されていった。しかし、このセクションに並ぶのはいずれも最初期にあたる1930年代の作品。つまり、何らかの理由で捨てることのできなかった作品群とも考えられるのだ。「ベーコンにとって作品を捨てるということは過去と決別することです。当時親密な関係にあった師匠との共作なのではないかとの説もあり、たとえベーコン自身が描いてなかったとしても、彼自身が捨てるには惜しいと思う理由があったのではないでしょうか。郷愁や愛着の気持ちを読み取ることのできる、どこか人間くさいパートになっています」。

これらの油彩画は、キュビスムやシュルレアリスムに傾倒したベーコンの若き日の試行がうかがえる貴重な作品群でもある。

ベーコンの身の回りの世話を行い、その見返りとしてアトリエ撮影やインタビューを許可してもらっていたというジュール。ベーコンがことあるごとにプレゼントしていたというポスターなどの資料も並ぶ。

こうしてジュールが大切に保管していた思い出の品々によって、生々しいベーコン像が浮き彫りになる本展。あわせて、本展の図録に寄稿されたジュールのテキストもチェックしてほしい。「フランシス・ベーコン、あなたへ」と題されたこのテキストは29ページにもおよび、溢れんばかりの個人的なエピソードがベーコンとはどういう人間であったかを雄弁に語り、展示作品同様に生々しい画家像を立ち上がらせている。

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