公開日:2026年10月28日

【後編】民藝から里藝へ──万博後の亀岡から考えるアートと建築。京都「ART PARK PROGRAM」レビュー(評:三木学)

京都・亀岡保津川公園で野外アートイベント「ART PARK PROGRAM」が11月8日まで開催中。美術評論家の三木学が「万博後」の視点から本イベントを読み解くレビューを前後編でお届け(撮影:井上嘉和)

会場風景より、大野宏による茅葺き小屋《農のかたち》

京都・丹波地域の複数エリアで行われている「第43回全国都市緑化フェアin京都丹波」。そのメイン会場のひとつである京都・亀岡保津川公園で、野外アートイベント「ART PARK PROGRAM」が9月18日〜11月8日に開催されている。

広大な公園・農地という開かれた場所で多様な作品が点在する本イベントでは、アート、農小屋、市民チーム活動という3つのアプローチから、土地や自然の歴史、人の営みと向き合い、それぞれが共鳴しながらこの場所ならでは風景を作り上げている。

ここでは、美術評論家の三木学が「万博後」の芸術祭や建築を見据える視点から本イベントをレビュー。後編では、プログラムのひとつであるアート展示「Art Sprout」と、会場に設置されている建築家・大野宏が手がけた竹と稲藁の作品群を論じる。【Tokyo Art Beat】

*前編はこちら

*本展のレポート記事はこちら

見えないものを掘り起こす「Art Sprout」

全国146組の応募から選ばれた7組による「Art Sprout」のテーマは「unearth(アンアース)」である。地中に埋まったものを掘り起こすという意味だが、対象は物質だけでなく、空気、地下の生命、土地の記憶、人と生きものの関係にまで及んでいる。

上田要《4つの空気》と、京都市立芸術大学の学生を中心としたコレクティヴ、呼吸の《Be-re-earth》は、ともに亀岡の空気を題材としている。上田は、市内の4つの場所で採取した空気を鏡面ステンレスの立方体に詰め込んだ。マルセル・デュシャンの《パリの空気50cc》(1919)のように持ち運ばれることはないが、立方体は内外の気圧差によって膨らんだり凹んだりし、そのたびに大きな音を立てる。呼吸しているかのようなその変容もろとも、鏡面は周囲の風景を映し込む。「呼吸」は、木材と竹のワイヤーフレームで鼻から下の巨大なライフマスクを組み上げ、天を見上げるかたちで設置した。開いた口は大地の呼吸を象徴し、植えられた植物は会期とともに生い茂っていく。内部に入れば、人もまたその呼吸の循環に取り込まれる。

会場風景より、上田要《4つの空気》
会場風景より、呼吸《Be-re-earth》

西久松友花《Web of Life》は、菌糸や蟻塚、冬虫夏草など、地下で生命を育む生きものの形態をリサーチし、陶で造形した作品である。これまで台座の上で作品を見せてきた作家が、今回は作品を地面に直接埋め、土から生えてきたようなインスタレーションにした。自然素材が緑に溶け込みすぎるなかで、赤系を中心とした彩度の高い釉薬は補色効果もあって際立ち、草原に突然花が咲いたように見える。近年、西條茜らによる大型の陶作品が注目を集めているが、本作は陶の屋外展示の可能性を示している。

会場風景より、西久松友花《Web of Life》

逆に、学生部門の浅田遼《Accumulation》は、野外にもっとも向かない素材をあえて選んでいる。巨大な架空の生きものの骨格を、発泡スチロールの芯に錆漆を塗り重ねる乾漆の技法で作り、山並みの前に立たせた。漆は紫外線に弱いが、浅田は退色もまた時間を刻むメディウムとして取り込んでいる。色が褪せていくこと自体が、タイトルの示す「堆積」の一部なのである。同じ旧丹波国の兵庫県丹波市では、国内最大級の植物食恐竜「丹波竜」の化石が発見されている。浅田の想像した骨格は、丹波に眠る太古の時間まで掘り起こしているように思える。

会場風景より、浅田遼《Accumulation》

石上純也建築設計事務所出身の建築家によるyamfum studioと、ReLinkとが協働で制作した《霞池》は、古民家から集めた古い型板ガラスを格子状に組み合わせ、巨大な円形の構造物にした。低く掘られた敷地から浮かせて設置され、毎朝露が集まり、雨が降れば水が溜まる。格子の合間からは植物が伸び、長年朝霧を受け止めてきたガラスの記憶が別のかたちで再生されている。

会場風景より、yamfum studio×ReLink《霞池》

大川なずな《Selection》は、楠を削り、古典的な木彫と寄木造によって2頭の牛を制作した。等身大の牛は、機械化以前に人と一体となって働いた農耕用の亀岡牛である。その体は真っ二つに切断され、切断面は鏡面になっている。上下をつなぐように吊られた小さな牛は、耳にタグをつけ、脂肪で太った食用の亀岡牛である。人とともに生きてきた動物の歴史の切断面が提示されている。祖父母が亀岡在住の大川は、この土地に通いながらリサーチを重ねた。

会場風景より、大川なずな《Selection》

京都芸術大学と東北芸術工科大学の学生選抜展「DOUBLE ANNUAL」を機に結成された日中のコレクティヴ、飛聲の《THE WALL WE SHARE》は、ふたりがボルダリングをしながら壁面に絵を描くアクション・ペインティングに、地域の人々との文通のような対話を取り込んでいる。

会場風景より、飛聲《THE WALL WE SHARE》

7組の作品は結果的に、絵画、木彫、金属、陶芸、漆芸、竹細工、ガラスと、伝統的な美術や工芸の素材と技法を横断している。本来は室内で見るための多くの技法が屋外で展開されたことは、展示の場所を限定しない可能性を開いた。「unearth」のもとで掘り起こされたのは、アートの技法でもあったのである。