公開日:2022年10月14日

【アート映画まとめ】フィクションやドキュメンタリーを通じてアート界の裏側に迫る。配信サービスで楽しむ映画7選

キュレーター、鑑定士、美術館職員、芸術家の家族、贋作者まで。アート・ワールドに陰ながら関わる人々に焦点を当てたアート映画を紹介

『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』(2014) 配給:セテラ・インターナショナル © 2014 Gallery Film LLC and Ideale Audience. All Rights Reserved.

私たちが生きる社会と同様に、アートの世界もまた、アーティスト以外の多くの人が関わっている。本記事では、普段は見ることのないアート・ワールドの裏側を、フィクションやドキュメンタリーとして描き出す7本のアートムービーを紹介。「アーティストの人生を知る」編も合わせてチェックしてほしい。
*配信期限付きの作品は予告なく配信終了する可能性があります。

『ある画家の数奇な運命』(2018)

まずはアートをめぐるフィクション作品を紹介しよう。舞台はナチ党政権下のドイツ。主人公の少年クルトは、叔母の影響で芸術に親しんで育つものの、その叔母は精神疾患が原因で入院、安楽死させられてしまう。第二次大戦後、クルトは東ドイツの美術学校でエリーという女性と出会い結婚するが、彼女の父親は元ナチ党の高官であり、叔母を死に追いやった張本人であったことが発覚する。

本作の主人公のモチーフは、国内で大規模個展が開催されているゲルハルト・リヒター。展覧会と合わせて、都内では映画館での再上映も行われている。この機会にぜひ鑑賞してみてはいかがだろうか。

監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
時間:3時間9分
配信:Amazon PrimeU-NEXTApple TVYouTube(レンタル・購入)、Google Play(レンタル・購入)

『ある画家の数奇な運命』(2018) 配給:キノフィルムズ © 2018 PERGAMON FILM GMBH & CO. KG / WIEDEMANN & BERG FILM GMBH & CO. KG

『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(2017)

美術館やキュレーターなど、展覧会を作る側の苦労を想像するには『ザ・スクエア 思いやりの聖域』がいいだろう。ある有名美術館のキュレーターが発表した作品「ザ・スクエア」が呼んだ思わぬ反響をきっかけに、大きな騒動に発展していく…というストーリー。フィクションだからこそのスキャンダラスな演出でありながらも、格差や差別など、私たちが現代社会のなかでぶつかる問題や困難が、アートの世界においても同じように存在していることが、映画を通じて実感できるはずだ。

監督:リューベン・オストルンド
時間:2時間31分
配信:Amazon PrimeU-NEXTApple TVYouTube(レンタル・購入)、Google Play(レンタル・購入)

『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(2017) DVD&Blu-ray発売中 配給:トランスフォーマー © 2017 Plattform Produktion AB / Société Parisienne de Production / Essential Filmproduktion GmbH / Coproduction Office ApS

『マイヤー・ウィッツ家の人々(改訂版)』(2017)

『マイヤー・ウィッツ家の人々』はニューヨークが舞台の作品。家庭を省みず、自身の制作に励んでばかりだった芸術家の父は、音楽家としての道を挫折した長男と、再び同じ家で生活することに。父に芸術家としての将来を期待された弟や長女も集まり、それぞれがわだかまりを抱えながら、家族としてともに時間を過ごしていく。

芸術家というと、気難しいイメージを持つ人が多いかもしれない。実際本作に登場する父はそんな気質だ。しかし子供たちの抱える、うまく言葉にできない、あるいは言葉にするには時間の経ち過ぎた思いは、私たちが自身の親や兄弟に対して抱くものと、そう変わらないかもしれない。

監督:ノア・バームバック
時間:1時間52分
配信:Netflix

Netflix映画『マイヤーウィッツ家の人々 (改訂版)』(2017)独占配信中

『鑑定士と顔のない依頼人』(2013)

どんでん返しのあるフィクションを見たければ『鑑定士と顔のない依頼人』がおすすめだ。本作は、主人公の天才美術鑑定士にある依頼が舞い込むことから始まる。決して姿を見せない依頼人の女と、鑑定に出されたどこか不自然な邸宅。鑑定士は、次第に依頼人に興味を持つようになる…。

主人公を演じるのは、『ジャコメッティ 最後の肖像』(2017)で主役を演じたジェフリー・ラッシュ。彼の見事な演技を通じて、作品が本物か見極める鑑定士という仕事の世界をのぞいてみてはいかがだろうか。

監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
時間:2時間11分
配信:Amazon PrimeU-NEXTApple TVYouTube(レンタル・購入)、Google Play(レンタル・購入)

『鑑定士と顔のない依頼人』(2013) DVD&Blu-ray発売中 配給:ギャガ ©︎ 2012 Paco Cinematografica srl.

『それでも夜は明ける』(2013)

19世紀アメリカの奴隷制を扱う『それでも夜は明ける』は、アートの世界を描いたものではないが、現代アーティストとしても著名なスティーヴ・マックイーンの監督作としてここで紹介したい。

アート作品でも黒人の歴史を扱ってきたマックイーンだが、本作は自由黒人ソロモン・ノーサップによる奴隷体験記をもとにした映画。ノーサップは、誘拐され奴隷として売られることになる。自分は北部の自由黒人だと主張するものの、主人に話は通じない。本作は、彼が解放されるまでの12年間の生活を描き出す。アカデミー賞を始め、数多くの映画賞を受賞した作品だ。

監督のスティーヴ・マックイーンはもともと、ロンドンで美術とデザインを学び、ビデオ・インスタレーション、彫刻、写真を制作していたアーティスト。キャリアの初期は実験映画を制作するなど、様々な方法で映像表現を試みてきた監督の力作は必見だ。

またマックイーンが監督・脚本を手がけた5本の映画アンソロジー『スモール・アックス』もスターチャンネルEXで配信されている。自身のルーツであるイギリスのカリブ系移民コミュニティに光を当て、1960〜80年代のロンドンを舞台とする物語だ。本作のレビューはこちら。

監督:スティーヴ・マックイーン
時間:2時間14分
配信:Amazon PrimeU-NEXTApple TVGoogle Play(レンタル・購入)

『それでも夜は明ける』(2013) DVD&Blu-ray発売中 配給:ギャガ ©︎ 2013 Bass Films, LLC and Monarchy Enterprises S.a.r.l. All Rights Reserved.

『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』(2014)

ドキュメンタリー映画の巨匠、フレデリック・ワイズマンによる『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』は、世界最高峰の美術館のひとつ、イギリスのナショナル・ギャラリーが舞台。3ヶ月の潜入取材を通じて、同館の全貌に迫る。豪華な美術作品もさることながら、注目すべきは美術館の裏側を支えるスタッフ。普段はみることのできないその仕事ぶりを知れば、展覧会の楽しみ方も広がるはずだ。

監督:フレデリック・ワイズマン
時間:3時間1分
配信:Amazon PrimeU-NEXTApple TVYouTube(レンタル・購入)、Google Play(レンタル・購入)

『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』(2014) 配給:セテラ・インターナショナル © 2014 Gallery Film LLC and Ideale Audience. All Rights Reserved.

『美術館を手玉にとった男』(2014)

2011年、50館近いアメリカの美術館が、マーク・ランディスというひとりの画家による贋作を展示していたことが発覚する。しかし、彼は「慈善活動」として贋作の寄贈を行っていたという。そんな「美術館を手玉にとった男」は、贋作が発覚しても、制作をやめない。本作はそんなランディスを中心に、贋作を見抜いた美術館職員などに焦点を当てたドキュメンタリー作品だ。

監督:ジェニファー・グラウスマン、 サム・カルマン
時間:1時間30分
配信:Amazon PrimeU-NEXTApple TVYouTube(レンタル・購入)、Google Play(レンタル・購入)

『美術館を手玉にとった男』(2014) 配給:トレノバ

『びじゅチューン!』

番外編として、美術を楽しく知ることができるオムニバス作品も紹介しよう。NHKの教育テレビで放送されている『びじゅチューン!』は1回あたり5分と手軽に見れる番組だ。日本の絵画・世界の絵画・立体物という3つのジャンルのなかから、著名な美術作品を選定。作品をテーマにしたオリジナルソングとその解説を通じて、美術が学べる。

作詞・作曲・歌・アニメーションはアーティストの井上涼がすべてひとりで担当している。NHK Eテレで見ることができるほか、Netflixでも配信中のため、そちらもぜひチェックしてほしい。

企画:倉森京子(NHKエデュケーショナル)
出演・作詞・作曲・歌・アニメーション:井上涼
放送時間:毎週水曜日 19:50 - 19:55、木曜日 16:25 - 16:30、金曜日 23:50 - 23:55(2022年10月現在 )
https://www.nhk.jp/p/bijutune/

浅見悠吾

浅見悠吾

1999年、千葉県生まれ。2021〜23年、Tokyo Art Beat エディトリアルインターン。東京工業大学大学院社会・人間科学コース在籍(伊藤亜紗研究室)。フランス・パリ在住。