公開日:2022年11月8日

今月の読みたい本!【11月】具体、リヒター、大竹伸朗、新海誠、子供向け工作

アート、映画、デザイン、建築、マンガ、ファッション、カルチャーなどに関するおすすめの新刊を毎月紹介。

『見えない音、聴こえない絵』

大竹伸朗 著
筑摩書房  900円+税 8月10日

月刊誌『新潮』での連載のうち2004〜2008年に発表されたテキストをまとめた単行本の文庫化。作家が9歳のときのイメージにまつわる思い出から、東京都現代美術館「全景」展の準備期間中に考えていたことまで。文庫版あとがきで大竹は、単行本刊行から14年を経たが、世界情勢の大きな変化があったいっぽうで、当時書いたテーマや中身には大きな違和感を感じなかったと綴っている。その一貫した作品制作を支える思考や姿勢、そして「サウンド&ヴィジョン」という創作の核について、東京国立近代美術館で回顧展が開催されているいま、改めて読み直したい。原田マハと石川直樹の解説も収録。

『作って発見!西洋の美術』

音ゆみ子 著
東京美術 3000円+税 9月30日発売 

楽しく「工作」することで美術を鑑賞する感性も養う小学生向け実用書。ピカソやゴッホらへの高い評価の根拠となる技法やアイデアに着目し、それを元にした工作を提案、そして作ることで得られる美術鑑賞の視点を提供する。筆者は府中市美術館学芸員であり、鑑賞と制作の両方を体験できる機会づくりにも取り組んできた。子供も大人も一緒に作りながら名画の面白さを体感したい。

『帝国の祭典:博覧会と〈人間の展示〉』

小原真史 著 
水声社 3000円+税 10月14日発売 

2022年の恵比寿映像祭で「スペクタクルの博覧会」という展示を企画したことも記憶に新しい小原真史による新刊。著者による膨大な博覧会資料コレクションをまとめた1冊で、見ること/見せることをめぐる欲望を問う。万博は1851年にロンドンで始まり、やがて植民地帝国の威容を示す舞台装置となった。非西洋の集落の再現やフリークショー、人間の「展示」を行った大阪での人類館など、人々はそこで「異文化」をいかにまなざし、世界を認識しようとしたのかに迫る。

『余白とフレーム:私の美術ノート』

今井祝雄 著 
水声社 3500円+税 10月14日発売 

著者の今井祝雄(のりお)は1946年大阪市生まれの美術家。高校在学中から吉原治良に師事し、具体美術協会に参加。本書は「空間」と「時間」への一環した興味のもと、平面や立体、写真、ビデオ、サウンドなど多様な形態の作品を制作し続けてきた著者のインタビューや、図録、ウェブサイトに書きとめたテキストなどを収録。グループの最年少メンバーとして見た「私的〈具体〉論」から2021年に書かれた未発表の覚書まで、その表現世界を支えた思考が明らかに。

『開かれた時空:遠近法から本のアートへ』

森田一 著 
水声社 6000円+税 10月14日発売 

川口現代美術館とうらわ美術館で学芸員として勤務し、松澤宥や吉増剛造などの展覧会を企画してきた著者による論集。展覧会の図録や雑誌などに寄稿したテキストから、遠近法と、本のアートという2つのテーマに基づいたものを収録。1994年に開館し99年に休館から閉館へと至った川口現代美術館、また「本をめぐるアート」をコレクションの主軸のひとつにすえるうらわ美術館、それぞれにおける活動や研究がひとつのパースペクティブのもとまとめられている。

『「かげ(シャイン)」の芸術家』

田中純 著
ワコウ・ワークス・オブ・アート 1800円+税 10月15日発売 

思想史学者の田中純(東京大学大学院総合文化研究所教授)によるゲルハルト・リヒターの作品論4編を収録。2022年に東京国立近代美術館と豊田市美術館で開催された「ゲルハルト・リヒター展」で日本で初公開された《ビルケナウ》をはじめ、《アトラス》《1977年10月18日》といった重要なシリーズを考察しながら、リヒター作品を生政治的なアートとしてひもとく。森大志郎デザインによるワコウ・ワークス・オブ・アートのテキストシリーズ第8弾。

『絵画は小説より奇なり: 一八世紀と一九世紀のイギリス絵画を読む』

小野寺玲子 著 
ありな書房 4500円+税 10月20日発売 

横浜美術大学美術学部教授でイギリス美術史を研究する筆者による著作。トマス・ゲインズバラの描く少年の衣装とモデルの謎、ウィリアム・ブレイクの中世彩飾写本、ヴィクトリア朝社会における女性像など、18世紀後半から19世紀末にいたるイギリス絵画を取り上げ、その魅力と不思議を論じる。

『戦後日本の抽象美術:具体・前衛書・アンフォルメル』

尾﨑信一郎 著
思文閣出版 7500円+税 10月26日発売 

具体美術協会を中心に日本の戦後美術を研究してきた筆者が、具体、『墨美』、アンフォルメル旋風など数々の神話に彩られた戦後美術史を再検証。35年に及ぶ学芸員生活のなかで国内外の数々の展覧会カタログに寄稿した論文を通して、戦後日本の抽象美術の核心に迫る全517ページ。現在、兵庫県立美術館に収められている山本徳太郎コレクションは戦後美術を体系的に収集したもので、海外から買い戻された具体の絶頂というべき作品群を含む。これらの整理に学生であった頃から携わり、存命だった作家と交流し、のちに同館の学芸員として数々の企画を実現させてきた筆者は、まさに時代の生き字引。現在のような具体の国際的評価獲得以前から、その重要性を研究し続けてきた筆者ならではの視点で論じられる本書は、具体の回顧展が開催中のいま必読の書。

『新海誠:国民的アニメ作家の誕生』

土居伸彰 著
集英社 900円+税 10月17日発売 

『君の名は。』と『天気の子』が大ヒットを記録し、今年11月には最新作『すずめの戸締まり』が公開されるアニメーション監督・新海誠。宮崎駿や庵野秀明とは異なり、大きなスタジオに所属したことがない”異端児”は、なぜ「国民的作家」になり得たのか。評論家であり海外アニメーション作品の紹介者として活躍する著者が、新海誠作品の魅力を世界のアニメーションの歴史や潮流と照らし合わせながら分析。「個人作家」としての特異性を明らかにする。

『新海誠論』

藤田直哉 著
作品社 1800円+税 10月31日発売 

「“新海誠”を読解することは、現代日本を問うことであり、我々の未来を救う鍵がある」とする本書は、初期作『ほしのこえ』から最新作『すずめの戸締まり』までを、一貫した論として語るもの。これまでの本人インタビューを網羅的におさえながら、ひとりの作家を超えた思想としての「新海誠」論を展開。災害や気候変動を描いてきた新海誠作品を通し、「危機の時代を健やかに生きる」ための道筋を探る。

『小さな芸術』

ウィリアム・モリス 著
川端康雄 訳 月曜社 2800円+税 11月21日発売

英国ヴィクトリア朝期の詩人・工芸家・社会主義運動家・思想家ウィリアム・モリス。その全体像を伝える著作集(全三巻)が刊行される。第一巻配本『小さな芸術』は、1870年代の終わりから1880年代にかけての講演集8篇を収録。「小さな芸術」「民衆の芸術」「芸術の目的」など、芸術と労働、自然をめぐるモリスの思想を伝える。モリス研究の第一人者による全編新訳。

【出版社様へ:新刊情報募集】
新刊情報や献本のご送付先については、以下のアドレスまでご連絡ください。
editors@tokyoartbeat.com

Art Beat News

Art Beat News

Art Beat Newsでは、アート・デザインにまつわる国内外の重要なニュースをお伝えしていきます。