アーティゾン美術館では「はじまりから、いま。1952ー2022 アーティゾン美術館の軌跡—古代美術、印象派、そして現代へ」展が開催中。会期は4月10日まで。
1952年に開館したブリヂストン美術館は5年間の休館を経て、アーティゾン美術館と改名し2020年にリニューアルオープン。活動の核には石橋財団のコレクションがある。本展は、70年にわたって築かれ国内屈指の質を誇る石橋財団コレクション形成の歴史を、約170点の作品や資料を通じて知ることができる。
最初のセクションでは、近年の収集活動を中心に紹介。もともと石橋財団のコレクションは、藤島武二《東洋振り》(1924)やマリー・ブラックモン《セーヴルのテラスにて》(1880)のような近代絵画が中心であった。だが昨今は、キュビスムや抽象表現、戦後日本の前衛絵画など、より現代的な作品へ収集の裾野を広げている。2020年の鴻池朋子、先日まで開催していた森村泰昌といった現代美術家とのコラボレーション企画「ジャム・セッション」からも、その動向を感じ取れるだろう。
展示冒頭では歴代の展覧会ポスターがずらりと並ぶ。またセクションの途中では、開館以来2300回以上の開催を数える講演会「土曜講座」の記録やポスターが展示されている。
続くセクションでは、コレクションに新たな風を吹き込んだ石橋財団の第3代理事長、石橋幹一郎の収集品に焦点が当てられる。幹一郎は、おもに戦後フランスを中心とする抽象絵画を好んで集めており、なかでも中国出身でありながらパリ画壇で活躍した画家、ザオ・ウーキーとは強固な信頼関係を築いていたという。《24.02.70》(1970)のような色彩に富んだ油彩画が中心だったザオだが、14年ぶりの展示となる大作《無題》(1982)は中国紙に墨で描かれたグリサイユ作品。本作を幹一郎が購入した際には、ザオからの礼状が届くなど、親睦の深さが伺える。
いっぽうで、幹一郎は東洋古美術へも強い関心を持っていた。それは地元である久留米市へ、劣化の激しい古美術品を守るための展示ケースを備えた建築を寄贈するほどだったという。本展では、コレクション《平治物語絵巻 常磐巻》(13世紀)が初公開。平清盛や牛若が登場する「平治物語」の終盤を全長16mに渡って描いたドラマティックな絵巻だ。
ほかにも、ピカソを好んだ父・正二郎への思いを感じさせる収集品、パブロ・ピカソ《腕を組んですわるサルタンバンク》(1923)や、堂本尚郎《集中する力》(1958)、ジョルジュ・マチュー《10番街》(1957)などが展示されている。
最後のセクションでは、石橋財団の創設者・石橋正二郎のコレクションの変遷を見ることができる。正二郎が美術品収集を始めるきっかけとなったのは、小学校時代の教員だった画家の坂本繁二郎との再会であり、彼の助言に従いながら美術館開館を目標に収集を開始したという。本展では坂本が敬愛した青木繁のほか、印象派に影響をもたらしたエドゥアール・マネ、ギリシア時代のヴィーナスなども展示されている。
パブロ・ピカソ《女の顔》(1923)は開館記念展のポスターやカタログの表紙になるなど、初期のコレクションとして代表的な作品。息子である幹一郎が《腕を組んですわるサルタンバンク》(1923)を購入した際の言葉「おやじが生きていればきっとこのピカソを買うと思うんだ」からも伺えるように、ピカソの作品を愛した正二郎。なかでも《女の顔》は、画商から購入の話が来た時には即決するほど熱狂的に欲していたという。それ以前となる最初期のコレクションとしては藤島武二やポール・シニャックなどの作品がある。
本展ではそのほか、60年の時を経てアメリカから日本へと戻ってきた《鳥獣戯画断簡》(12世紀)なども見どころ。コレクションに至るまでのストーリーも豊かな作品を見に、ぜひ訪れてほしい展覧会だ。