公開日:2022年2月8日

国内屈指のコレクションはどのように築かれてきたのか? アーティゾン美術館「はじまりから、いま。」フォトレポート

近代西洋画から抽象表現、戦後日本の前衛絵画、東洋古美術まで、石橋財団のコレクションを豊富な写真でお届け。

会場風景より、藤島武二《東洋振り》(1924)

アーティゾン美術館では「はじまりから、いま。1952ー2022 アーティゾン美術館の軌跡—古代美術、印象派、そして現代へ」展が開催中。会期は4月10日まで。

1952年に開館したブリヂストン美術館は5年間の休館を経て、アーティゾン美術館と改名し2020年にリニューアルオープン。活動の核には石橋財団のコレクションがある。本展は、70年にわたって築かれ国内屈指の質を誇る石橋財団コレクション形成の歴史を、約170点の作品や資料を通じて知ることができる。

会場風景より

Section1:アーティゾン美術館の誕生

最初のセクションでは、近年の収集活動を中心に紹介。もともと石橋財団のコレクションは、藤島武二《東洋振り》(1924)やマリー・ブラックモン《セーヴルのテラスにて》(1880)のような近代絵画が中心であった。だが昨今は、キュビスムや抽象表現、戦後日本の前衛絵画など、より現代的な作品へ収集の裾野を広げている。2020年の鴻池朋子、先日まで開催していた森村泰昌といった現代美術家とのコラボレーション企画「ジャム・セッション」からも、その動向を感じ取れるだろう。

会場風景より、藤島武二《東洋振り》(1924)
会場風景より、マリー・ブラックモン《セーヴルのテラスにて》(1880)
会場風景より、荻須高徳《アベスの階段》(1954)
会場風景より、森村泰昌《M式「海の幸」第1番:假象の創造》(2021)
会場風景より、ヘレン・フランケンサーラー《ファースト・ブリザード》(1957)

展示冒頭では歴代の展覧会ポスターがずらりと並ぶ。またセクションの途中では、開館以来2300回以上の開催を数える講演会「土曜講座」の記録やポスターが展示されている。

会場風景より、開館以来の展覧会ポスター
会場風景より、土曜講座ポスター

Section2:新地平への旅

続くセクションでは、コレクションに新たな風を吹き込んだ石橋財団の第3代理事長、石橋幹一郎の収集品に焦点が当てられる。幹一郎は、おもに戦後フランスを中心とする抽象絵画を好んで集めており、なかでも中国出身でありながらパリ画壇で活躍した画家、ザオ・ウーキーとは強固な信頼関係を築いていたという。《24.02.70》(1970)のような色彩に富んだ油彩画が中心だったザオだが、14年ぶりの展示となる大作《無題》(1982)は中国紙に墨で描かれたグリサイユ作品。本作を幹一郎が購入した際には、ザオからの礼状が届くなど、親睦の深さが伺える。

会場風景より、ザオ・ウーキー《24.02.70》(1970)
会場風景より、ザオ・ウーキー《無題》(1982)

いっぽうで、幹一郎は東洋古美術へも強い関心を持っていた。それは地元である久留米市へ、劣化の激しい古美術品を守るための展示ケースを備えた建築を寄贈するほどだったという。本展では、コレクション《平治物語絵巻 常磐巻》(13世紀)が初公開。平清盛や牛若が登場する「平治物語」の終盤を全長16mに渡って描いたドラマティックな絵巻だ。

会場風景より、《平治物語絵巻 常磐巻》(13世紀)
会場風景より、《保元平治物語絵扇面》(17世紀)

ほかにも、ピカソを好んだ父・正二郎への思いを感じさせる収集品、パブロ・ピカソ《腕を組んですわるサルタンバンク》(1923)や、堂本尚郎《集中する力》(1958)、ジョルジュ・マチュー《10番街》(1957)などが展示されている。

会場風景より、パブロ・ピカソ《腕を組んですわるサルタンバンク》(1923)
会場風景より、堂本尚郎《集中する力》(1958)
会場風景より、ジョルジュ・マチュー《10番街》(1957)

Section3:ブリヂストン美術館のあゆみ

最後のセクションでは、石橋財団の創設者・石橋正二郎のコレクションの変遷を見ることができる。正二郎が美術品収集を始めるきっかけとなったのは、小学校時代の教員だった画家の坂本繁二郎との再会であり、彼の助言に従いながら美術館開館を目標に収集を開始したという。本展では坂本が敬愛した青木繁のほか、印象派に影響をもたらしたエドゥアール・マネ、ギリシア時代のヴィーナスなども展示されている。

会場風景より、青木繁《海の幸》(1904)
会場風景より、エドゥアール・マネ《自画像》(1878-79)
会場風景より、《ヴィーナス》(紀元前323-30)

パブロ・ピカソ《女の顔》(1923)は開館記念展のポスターやカタログの表紙になるなど、初期のコレクションとして代表的な作品。息子である幹一郎が《腕を組んですわるサルタンバンク》(1923)を購入した際の言葉「おやじが生きていればきっとこのピカソを買うと思うんだ」からも伺えるように、ピカソの作品を愛した正二郎。なかでも《女の顔》は、画商から購入の話が来た時には即決するほど熱狂的に欲していたという。それ以前となる最初期のコレクションとしては藤島武二やポール・シニャックなどの作品がある。

会場風景より、パブロ・ピカソ《女の顔》(1923)
会場風景より、黒田清輝《針仕事》(1890)
会場風景より、藤下武二《黒扇》(1908-09)

会場風景より、宮本三郎《石橋正二郎氏像》(1969-70)

本展ではそのほか、60年の時を経てアメリカから日本へと戻ってきた《鳥獣戯画断簡》(12世紀)なども見どころ。コレクションに至るまでのストーリーも豊かな作品を見に、ぜひ訪れてほしい展覧会だ。

浅見悠吾

浅見悠吾

1999年、千葉県生まれ。2021〜23年、Tokyo Art Beat エディトリアルインターン。東京工業大学大学院社会・人間科学コース在籍(伊藤亜紗研究室)。フランス・パリ在住。