公開日:2022年3月15日

デジタルアートの本格的な展示という挑戦。Rhizomatiks×ELEVENPLAYらが参加する「ETERNAL Art Space」レポート

デジタルアートの映像を高精細プロジェクターで上映するイベント「ETERNAL Art Space」が東京で開催。

「ETERNAL Art Space」会場風景 Photo by Shigeo Gomi

身体を飲み込むように迫り来る映像と、大迫力の音響。「新しいデジタルアート体験の提供」を謳うイベント「ETERNAL Art Space」が、3月12日〜20日に期間限定で開催されている。場所は国際展示場駅や有明駅からほど近い、パナソニックセンター東京 Aスタジオだ。

本イベントは、Rhizomatiksと演出振付家のMIKIKO率いるダンスカンパニーELEVENPLAYによる新作をはじめ、国内外で活躍する作家たちの8作品を連続して上映。時間は50分で、1日7回上映、各回40名限定となる。

「ETERNAL Art Space」会場風景 Photo by Shigeo Gomi

大規模なデジタルアートを展示するには、スクリーンや音響など十分な会場設備が必要となる。近年はチームラボのミュージアム「チームラボボーダレス」(お台場)が人気を博したり、巨匠による絵画作品をモチーフにした没入体験型ミュージアムの展示が期間限定で開催されたりしているが、同時代のアーティストのデジタルアート作品をまとまったかたちで紹介する展示は国内ではなかなかない。

そのようななか、本イベントは高精細な最先端技術を駆使したプロジェクターを搭載した空間で、最先端のデジタルアート作品を堪能できる貴重な機会となっている。参加するのは、オリンピックの式典をはじめとする大型イベントやライブイベントにクリエーターとして参加したり、メディアアートの世界的なイベント「アルス・エレクトロニカ」(オーストリア、リンツ)に出品するなど、国際的に注目を集めるアーティストたち。ほとんどが新作で、一部が本会場に合わせてブラッシュアップされた作品だ。

「ETERNAL Art Space」会場入口 Photo by Shigeo Gomi

実際に会場を訪れると、靴を脱いで、特設の展示室に入ることになる。そこには幅約22m、高さ約8m、投射面43mに及ぶ巨大なスクリーンがコの字型に設置されている。座布団や簡易的なイスが用意され、鑑賞者はそれを持って好きな場所に座ったり、歩き回ったりしながら作品を鑑賞する。写真や動画の撮影も可能だ。スクリーンから離れて作品全体を眺めるもよし、スクリーンの目の前に立ったりコの字型の内部に座って、映像を全身に浴びるようにして楽しむもよし。鑑賞者は思い思いの方法でデジタルアート作品を体験することができる。

上映はまずAkiko Nakayama & Eiichi Sawado《泡沫の形 (The Morphology of Freely Rising Deformable Bubbles)》からスタート。空間全体が鮮やかな色彩のグラデーションで満たされる。絵具がとろけるように流れ、様々な色が混ざり合って変容し、薄い膜をもった泡沫は躍動しては割れていく流動的な世界。画家の中山晃子はこれまで、絵筆やインクを使って生み出す手元のイメージを大きく投射するライブパフォーマンス《Alive Painting》を行なっており、その映像を用いたのが本作だ。音楽を手がけるのは澤渡英一。

「ETERNAL Art Space」会場風景 Photo by Shigeo Gomi
「ETERNAL Art Space」会場風景 Photo by Shigeo Gomi

続く《IMPRESSIONISM》は、印象派の画家モネの「睡蓮」をもとにした作品。著名な芸術作品を映像コンテンツ化し、壁面と床面を埋め尽くす映像と特別な音響体験を提供する没入型体験ミュージアム「Immersive Museum」が近日開催予定であり、その第一作となる《“印象派” IMPRESSIONISM》から一部を特別編集したものだ。ジヴェルニーの庭園で描かれた絵がスクリーンいっぱいに広がり、カメラが動くように睡蓮の池の上を浮遊し、有名な太鼓橋の下をすーっとくぐり抜けていく、まさに絵画に入り込むような楽しさがある。

「ETERNAL Art Space」会場風景 Photo by Shigeo Gomi

フランス出身のアーティストMaotik(マオティック)は、音楽、ダンス、演劇、建築、科学など他分野とのコラボレーションを頻繁に行い、アートとテクノロジーの関係について研究しているデジタルアーティスト。今回出品された《FLOW》は、波のリアルタイムデータから自然を表現した作品だ。

「ETERNAL Art Space」会場風景 Photo by Shigeo Gomi

カナダ人アーティストのSabrina Ratté(サブリナ・ラテ)は、デジタルと物理的な空間の影響関係や、環境と主観の相互作用に興味をもち、その表出を試みる。今回の《FLORALIA II》は、「サイボーグ・フェミニズム」「伴侶種宣言」などで知られるダナ・ハラウェイや、SF作家アーシュラ・K・ル=グウィン、グレッグ・イーガンらの著作に触発されたもの。花のような有機的なモチーフとデジタル空間が組み合わされたサイバネティックスな雰囲気で、ノンヒューマン、テクノロジーと有機物が融合した近未来的な生態系のイメージが展開される。

「ETERNAL Art Space」会場風景 Photo by Shigeo Gomi

《Stillness》はTHINK AND SENSE & Intercity-Expressによる作品。京都にある建仁寺塔頭両足院の副住職である伊藤東凌の協力を得て、建仁寺の庭園をフォトグラメトリー技術により三次元データ化。それをもとに、禅の世界観をマッシュアップ的に表現した。

「ETERNAL Art Space」会場風景 Photo by Shigeo Gomi

ここまでは鮮やかな色彩や自然の有機的なモチーフが目立つ構成だったが、Cao Yuxi & Lau Hiu Kong《Dimensional Sampling》はモノトーンに貫かれたストイックなイメージで、会場の雰囲気を一変。QRコードのイメージや携帯電話やコンピューターの音を再編成して処理した音響を用いるなど、デジタル時代のコミュニケーションやカルチャーに言及する。北京オリンピックの開会式のプロジェクション演出を担当した中国のアーティストCao Yuxi(カオ・ユクシィ)と香港出身のアーティストLau Hiu Kong(ラウヒウ・コン)のコラボレーション。

「ETERNAL Art Space」会場風景 Photo by Shigeo Gomi

膨大なデータベースの海を泳ぐようにして始まった《Machine Hallucination - Space, ISS, Hubble》は、トルコ・イスタンブール出身のRefik Anadol(レフィーク・アナドール)の作品。レフィークはAIを活用するメディアアーティストで、近年世界中のイベントなどで引っ張りだこだという。本作は2018年から現在までのNASA JPLとのコラボレーションと、作家が長年にわたり行ってきた宇宙探査の写真の歴史に関するリサーチをもとにした作品。200万枚以上の宇宙と地球の画像を学習させた機械学習アルゴリズムを用いて、人類による宇宙への探求を視覚的に思索する。眩い光や音響の効果も相まって、黙示録的で重厚な世界が押し寄せてくるようだ。

「ETERNAL Art Space」会場風景 Photo by Shigeo Gomi
「ETERNAL Art Space」会場風景 Photo by Shigeo Gomi

そして最後の作品がELEVENPLAY×Rhizomatiks《Infinity flow 2022》。本プログラムのなかで初めてにして唯一、人間の身体が登場する作品で、エレガントでありながら鮮烈な印象を残した。最初は赤く発光するデジタルな人型が登場し、続くシークエンスでは白い衣装を身に纏ったダンサーが登場。その踊る姿は衣装の白と肌の色の線へと抽象的に分解・拡散され、スクリーン上で躍動する。ダンサーの身体構造とモーションを幾何学的なアプローチを用いて空間に埋め込み、様々な形態の作品を生み出してきたELEVENPLAYとRhizomatiksのコラボレーションによる新作だ。

「ETERNAL Art Space」会場風景 Photo by Shigeo Gomi
「ETERNAL Art Space」会場風景 Photo by Shigeo Gomi

本イベントはアートや音楽など多領域にわたってデジタルなクリエーションの発展と芸術文化の普及を目的とする団体「MUTEK.JP」が主宰し、2021年度アーツカウンシル東京の大規模文化事業助成採択事業、TEAM EXPO 2025の一環として開催された。MUTEK.JPの岩波秀一郎は、「近年はNFTアートに注目が集まっていますが、これまではデジタルアーティストが作るものはDJや音楽イベント、ライブパフォーマンスの領域で注目されるという時代が続いてきました。でもその作品が芸術として日の目を見る機会は限られていました。今回は展示というかたちでデジタルアートと触れる、新たな方法を提案したいと思っています」と語る。

最新テクノロジーを用いたアートを鑑賞するための新たな場の創出を目指す「ETERNAL Art Space」。次世代に向けたアート×デジタルの挑戦に、ぜひ注目してほしい。

ETERNAL Art Space (エターナル アート スペース)
日程:2022年3月12日〜 20日
時間:11:00〜21:00 / 1日7回上映
1回目:開場 10:40 開演 11:00〜終演11:50 (50分)
2回目:開場 12:10 開演 12:30〜終演13:20 (50分)
3回目:開場 13:40 開演 14:00〜終演14:50 (50分)
4回目:開場 15:10 開演 15:30〜終演16:20 (50分)
5回目:開場 16:40 開演 17:00〜終演17:50 (50分)
6回目:開場 18:10 開演 18:30〜終演19:20 (50分)
7回目:開場 19:40 開演 20:00〜終演20:50 (50分)

人数:各回40名限定
場所:パナソニックセンター東京 Aスタジオ(〒135-0063 東京都江東区有明3-5-1)
入場料:一般2000円 高校生/大学生1,500円 中学生以下無料
URL:https://eternalart.space/
※イベントの詳細はオフィシャルサイトにてご確認をお願いいたします。

主催:一般社団法人MUTEK Japan
協力:パナソニック株式会社
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京【大規模文化事業助成】

MUTEK.JPについて
MUTEK.JPは、デジタル・クリエイティビティ、電子音楽、オーディオ・ヴィジュアルアートの創造性の開発、文化芸術の普及を目的とした、国際的に名高い芸術文化活動を行う団体。2000年にカナダ・モントリオールからスタートした”MUTEK“は、文化芸術に関わる才能豊かな人材の発掘・育成をサポートし、常に新しいアイデアやコンテンツの創出支援をコンセプトに掲げ、自由で実験的な表現の場を提供するクリエイティブ・プラットフォームを構築している。グローバルで展開するMUTEKは、モントリオール、メキシコシティー、バルセロナ、ブエノスアイレス、ドバイ、サンフランシスコ、そして東京と、世界7か国に拠点を置き、国際的な大きなフェスティバルへと成長と発展を続けている。日本では、2016年にMUTEK Japan を設立。現在に至るまで、様々なジャンルのアーティストやクリエイターと交流する場を創出することで、新たな魅力創造を行うクリエイティブなコミュニティの形成を促進し、多彩な企画、運営、制作を実施している。

福島夏子(編集部)

福島夏子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集長。『ROCKIN'ON JAPAN』や『美術手帖』編集部を経て、2021年10月より「Tokyo Art Beat」編集部で勤務。2024年5月より現職。