公開日:2022年12月21日

天王洲アイル、最新アートガイド。アートとともに発展するウォーターフロントで8軒のアートスペースを訪ねる

今回のギャラリーガイドの舞台は、品川区・天王洲アイル。アート・コンプレックス内のギャラリーを中心に紹介

TERRADA ART COMPLEXと天王洲アイル駅を結ぶ新東海橋からの眺め。壁面の絵はARYZ《“The Shamisen” Shinagawa 2019》

周辺を運河が流れ、お台場や渋谷・新宿へのアクセスもよい天王洲アイル。都内屈指のアート複合施設があるなど、アートな街として知られています。今回のギャラリーガイドでは、TERRADA ART COMPLEX内のギャラリーを中心に、周辺のアートスペースなども合わせて紹介します。

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*都内のエリア別アートガイド記事の一覧はこちらをチェック

東京モノレール・東京臨海高速鉄道が通る天王洲アイル駅から徒歩およそ10分。グレーで重厚感がある外観のビルが2棟見えてきたら、それが「TERRADA ART COMPLEX」です。天王洲を芸術文化の発信地にすることを目的に、2016年に「TERRADA ART COMPLEX I」が、20年には「TERRADA ART COMPLEX II」がオープンし、22年12月現在、合わせて15以上のギャラリーがここに集まっています。

MAKI Tennoz l(TERRADA ART COMPLEX Iの外観)
MAKI Tennoz II(TERRADA ART COMPLEX IIの外観)

運営する寺田倉庫株式会社は、天王洲アイルの発展と切っても切れません。1950年に創業した同社は、ワイン、アート、映像フィルムなどの保管事業を中心としつつも、天王洲を芸術文化発信の拠点とするために、倉庫会社の枠に収まらない事業を展開しています。

今回は、TERRADA ART COMPLEX I内のギャラリーを中心に紹介していきます。まずは、倉庫ならではの堅牢なエレベーターで5階へ!

KOSAKU KANECHIKA

5階にある「KOSAKU KANECHIKA」は、2017年にオープンしたギャラリーです。青木豊、沖潤子、桑田卓郎、佐藤允、鈴木親、舘鼻則孝、fumiko imano、十三代 三輪休雪、ダン・マッカーシー、ルビー・ネリと、写真や陶芸など、現代美術の分野で活躍する作家と協働しています。
筆者が訪れたときは、沖潤子の個展 「よれつれもつれ」が開催されていました。表現手法とする刺繍の意味を拡張するような作風が気になる人は、神奈川県立近代美術館鎌倉別館「沖潤子 さらけでるもの」展のフォトレポートをチェックしてみてはいかがでしょうか。

青木豊「歩く花嫁」(2022)展示風景
沖潤子 「よれつれもつれ」(2022)展示風景

同じく5階には、谷中、六本木などでギャラリーを展開する「SCAI THE BATHHOUSE」が2017年にオープンした「SCAI PARK」も。李禹煥、名和晃平、アニッシュ・カプーアなど、所属作家の新作やSCAIが所蔵する作品を、ガラスウィンドウ越しに鑑賞することができます。スペースに入ることはできないのでご注意ください。

「#31 和田礼治郎」(2022) 撮影:表 恒匡  協力:SCAI THE BATHHOUSE

ANOMALY

つづいて、4階へ。正論や常識では説明不可能な事象や個体、変則や逸脱を意味する「ANOMALY」は、山本現代・URANO・ハシモトアートオフィスという、10年以上のキャリアを持つ3つのギャラリーが合併し、2018年に設立されたギャラリー。所属作家は、青木野枝、岩崎貴宏、小谷元彦、小林耕平、坂本夏子、篠原有司男、玉山拓郎、Chim↑Pom from Smappa!Group、津上みゆき、永田康祐、西野達、潘逸舟、渡辺豪など、現代美術のフィールドで活躍する作家が中心です。

展覧会はもちろん、トークセッション、パフォーマンス、演劇の公演も行うなど、変則的でよりインディペンデントな活動を展開する同スペース。スタッフの辻村さんは「日々小さな変化が起き続けて、既存のギャラリーの枠に収まらない、文化的で豊かな土壌をつくることを、ギャラリーとして目指しています」と語ってくれました。

青木野枝「Mesocyclone」(2021)展示風景 撮影:山本糾
玉山拓郎「Anything will slip off : If cut diagonally」(2021)展示風景 撮影:大町晃平

なお4階には、2022年に「小山登美夫ギャラリー天王洲」もオープン。六本木にスペースを持ち、菅木志雄、杉戸洋、蜷川実花、リチャード・タトルなどの作品を扱うギャラリーの新たなスペースです。

Takuro Someya Contemporary Art

続いて3階にある「Takuro Someya Contemporary Art」。同スペースは2006年に千葉県柏市でオープンし、18年からTERRADA ART COMPLEX Ⅰへ移転。22年より展示空間を拡張し、リニューアルオープンしたギャラリーです。取扱作家には、岡﨑乾二郎、大山エンリコイサム、ラファエル・ローゼンダール、黒川良一、村山悟郎、細倉真弓、伊勢周平、山下麻衣+小林直人などがいます。
写真はエアロゾル・ライティングという手法を再解釈し、表現に用いる大山エンリコイサムの個展「Epiphany」の展示風景。横綱・照ノ富士の化粧まわしでも話題になった作家です。要所で打ちっぱなしがむき出しになった展示空間に、大山の鋭い描線がよく馴染んでいる印象を受けました。

大山エンリコイサム 「Epiphany」(2022)展示風景 ©︎Enrico Isamu Oyama Photo by Shu Nakagawa Courtesy of Takuro Someya Contemporary Art
大山エンリコイサム 「Epiphany」(2022)展示風景 ©︎Enrico Isamu Oyama Photo by Shu Nakagawa Courtesy of Takuro Someya Contemporary Art

KOTARO NUKAGA

同じフロアの「KOTARO NUKAGA」は、2018年オープン。ギャラリースペースはスイスの建築事務所ヘルツォーク&ド・ムーロン出身の建築家である石田建太朗によるデザインです。これまで、インカ・エッセンハイ、田窪恭治、田村友一郎、平子雄一、ニール・ホッド、松川朋奈、松山智一、森本啓太、カルロス・ロロンらの展覧会を開催してきました。21年には、六本木のピラミデビル内に「KOTARO NUKAGA(六本木)」もオープンしているため、六本木を訪れた際は、こちらも足を運んでみてはいかがでしょうか。

児玉画廊

3階には「児玉画廊」も。同ギャラリーは1999年の開廊以来、若手の作家や見過ごされてきた才能をいち早く、積極的にピックアップしマーケットに送り出していくというコンセプトのもと活動しています。所属作家は伊藤隆介、貴志真生也、久保ガエタン、佐藤慧、鈴木大介、宮崎光男、和田真由子など。もともと大阪、京都と、関西を拠点としていながら、現在は東京・天王洲にスペースを持つギャラリーです。

高谷史郎「Topograph / Toposcan」(2019)展示風景 Courtesy of the artist and Kodama Gallery
伊阪 柊、久保ガエタン「ignore your perspective 58『不時着アブダクション』」(2021)展示風景 Courtesy of the artist and Kodama Gallery

MAKI

「MAKI」は2003年設立、14年に表参道、20年に天王洲にスペースをオープンしたギャラリー。TERRADA ART COMPLEX I と II の1階に、ふたつのスペースを有しています。主に、戦後以降の、世界の現代美術シーンで活躍する作家作品を扱っており、近年はマンゴ・トムソン、ミヤ・アンドウ、エキソニモなどの展覧会を開催してきました。ふたつのビルの1階を広く使った展示空間では、定期的な個展開催に加え、オーナーの牧夫妻によるコレクション展も楽しむことができます。25年まではロサンゼルスのアーティスト、ジョナス・ウッドによる「テニスコート・ドローイング」が常設されています。

鍵岡リグレアンヌ 「Addition - Subtraction」(2022)展示風景
baanai 「UNLOGICAL」(2022)展示風景

TERRADA ART COMPLEX IIには、タカ・イシイギャラリーによるビューイングルームT&Y ProjectTHE ANZAI GALLERYSOKYO ATSUMIMU GALLERYYUKIKOMIZUTANIなど、まだまだギャラリーがたくさん。ぜひお気に入りのギャラリーを見つけてみてはいかがでしょうか?

TERRADA ART COMPLEXを出て、天王洲アイル駅の方面へ向かいましょう。駅周辺を歩いていると、運河沿いの屋外や、ビルのエントランスなど、あちこちにパブリックアートを見つけることができるはずです。

運河沿いに展示されている、日比淳史《間合いの地》
東横INN品川港南口天王洲アイルのエントランスに設置されている、三島喜美代《Work 2012》

WHAT MUSEUM

TERRADA ART COMPLEXから駅に向かう道中、向かって右側の「WHAT MUSEUM」は、寺田倉庫が作家やコレクターから預かっている貴重な作品を公開するスペース。2020年にオープンしました。施設名の「WAREHOUSE OF ART TERRADA」は、本来であれば倉庫に保管されていて見ることができないコレクションを「垣間見る」という意味が込められているとのこと。過去には「さわれる!建築模型展」「OKETA COLLECTION『YES YOU CAN −アートからみる生きる力−』展」など、多様なジャンルの展覧会が開催されてきました。

*WHAT MUSEUMは2023年春まで休館中。

WHAT MUSEUMの外観
WHAT MUSEUM展示風景 Photo by Keizo KIOKU

WHAT CAFE

WHAT MUSEUMにほど近い「WHAT CAFE」は、若手の現代美術家の作品を展示・販売する施設。800平方メートルもある広々とした空間が印象的です。「ART IS ...」というコンセプトを掲げる企画展が開催されており、展示替えの際にはすべての作品を入れ替えることで、作家はより多くの作品発表の、訪れた人々はより多様な作品に出会う機会を生み出すことが意図されています。カフェスペースは展示空間が融合しているため、お茶をしながらお気に入りの作品を探してみてはいかがでしょうか。

WHAT CAFEの外観
WHAT CAFEの内観

WHAT MUSEUMから駅に向かう方面には、ラボ・ミュージアム・アカデミー・ショップと4つの顔を持つ施設「PIGMENT TOKYO」も。隈研吾による竹のすだれをイメージした曲線が美しく、希少な伝統画材が並ぶ棚に目を奪われます。

PIGMENT TOKYOの内観

いかがだったでしょうか?友人とお出かけがてらアート作品を見に、あるいはアート・コンプレックスでじっくり作品を鑑賞し、お気に入りの作品を探すのもよいでしょう。アートともに発展していく天王洲アイルへ、ぜひ一度訪れてみてください。

浅見悠吾

浅見悠吾

1999年、千葉県生まれ。2021〜23年、Tokyo Art Beat エディトリアルインターン。東京工業大学大学院社会・人間科学コース在籍(伊藤亜紗研究室)。フランス・パリ在住。