公開日:2023年8月19日

関東大震災を知るための展覧会11選。未曾有の巨大災害から学ぶ

震災を描いた絵画、修復と復興、科学的・地理学観点からの資料、虐殺の歴史など、東京・神奈川・千葉・茨城で開催される展覧会を紹介。

望月晴朗 同志山忠の思い出 1931

関東大震災の発生から今年で100年。1923年9月1日に相模湾海底を震源として発生し、死者・行方不明者は10万人に上った。節目の年に合わせて、関東地方を中心にこの大震災に関する展覧会が開催されている。今後数十年のあいだに巨大地震が起こることが予測されている日本。貴重な資料や作品を通して過去の大地震について学んでおきたい。本記事で紹介する以外にも、TABイベントページの「関東大震災」タグも参照してほしい。

関東大震災と東京国立博物館(東京国立博物館)

東京国立博物館では、震災当時の様子を伝える歴史資料や、実際に被災した収蔵品などを公開。旧体制の東京帝室博物館における当時の被害状況を振り返るとともに、そこからの復旧・復興の歩みも紹介される。8月20日に平成館で開催される講演会「大災害時代の文化財防災 過去・現在・未来-関東大震災100年」も合わせてチェックしておきたい。

会場:東京国立博物館
会期:7月11日~9月3日

関東大震災、100年ぶりの慟哭ー アイゴー展(横浜市民ギャラリーあざみ野、神奈川)

関東大震災を思い返すとき、地震それ自体による被害だけでなく、その後の社会的混乱も無視することはできない。震災直後「朝鮮人が井戸に毒を入れた」というデマが流れ、それを信じた人々によって多くの在日朝鮮人が虐殺されるという事件が起きた。本展はその被害者を追悼し、歴史と向き合うための展覧会。「アイゴー」とは朝鮮語における悲痛な叫びという意味を含む感嘆詞のこと。韓国人・在日朝鮮人・日本人アーティストなど、40名が作家として参加する。

会場:横浜市民ギャラリーあざみ野
会期:8月16日~8月20日
事前予約制

「関東大震災、100年ぶりの慟哭ー アイゴー展」(横浜市民ギャラリーあざみ野)展示風景 撮影:編集部

震災からのあゆみ - 未来へつなげる科学技術 - (国立科学博物館、東京)

本展は、関東大震災について科学の観点から検討するもの。日本館1階 企画展示室では、震災の被害とそこからの復興、直近100年間での地震防災研究について紹介される。さらに地球館1階 オープンスペースでは防災のために私たちができる備えについて学べるほか、日本館1階 中央ホールでは災害を表現した画報や油彩画、絵図などの展示を通じて、災害の「伝え方」に焦点が当てられる。

会場:国立科学博物館
会期:9月1日~11月26日

堅山南風《大震災実写図巻》と近代の画家 大観・玉堂・青邨・蓬春(半蔵門ミュージアム、東京)

半蔵門ミュージアムでは関東大震災100年に合わせて、堅山南風《大震災実写図巻》を公開。南風は巣鴨で被災後浅草や上野に出向き、被害状況や復興にいたる様子を描きとめ、3巻・31図にまとめた。本作に加え、会期前半は横山大観、川合玉堂、棟方志功、山田申吾による日本の風景をモチーフとした作品が、会期後半は竹内栖鳳、鏑木清方、小杉放菴、前田青邨、山口蓬春の人物や動植物の絵画が展示される。

会場:半蔵門ミュージアム
会期:7月19日~11月5日

所蔵作品展 MOMATコレクション(東京国立近代美術館)

今期の東京国立近代美術館のコレクション展でも、関東大震災に関わる作品が公開中だ。震災の関連作は4階2〜4室で展示。地震の際、上野公園の竹之台陳列館で開催されていた再興院展と二科展での出展作品や、震災後に加速した前衛の動向、プロレタリア美術の隆盛について紹介される。

会場:東京国立近代美術館
会期:5月23日~9月10日

望月晴朗 同志山忠の思い出 1931

東京ビエンナーレ

東京都心北東エリアを舞台とする東京ビエンナーレでは、「リンケージ」と題してエリアごとに複数のプログラムが展開。そのプログラムのひとつ「パブローブ:100年分の服」が関東大震災の関連企画だ。関東大震災後の復興期に建てられた神田の海老原商店を拠点に、震災から現在にいたるまでの100年のあいだに着られた衣服を募集。扱った衣類をもとに「パブローブ」=パブリックなワードローブが制作される。

会場:東京都千代田区、中央区、文京区、台東区など
会期:7〜9月(夏会期)、9月23日〜11月5日(成果展示)
https://tokyobiennale.jp/tb2023/linkage/pubrobe-100-years-of-clothing/

西尾美也 + 403architecture [dajiba] Pubrobe 2016 「あいちトリエンナーレ2016」展示風景より 愛知県美術館 Photo by Yoshihiro Kikuyama

関東大震災 あれから100年 語り継ぐべき記憶(消防博物館、東京)

四谷にある消防博物館では、関東大震災震災の伝承に注目する展覧会が開催中。震災当時の状況が克明に記された画報や手記といった資料が展示されるほか、それをもとにしたメッセージ動画の上映や、子ども向け「関東大震災クイズノート」の配布などが行われている。

会場:消防博物館
会期:7月14日〜9月10日

関東大震災 - 原点は100年前 - (神奈川県立歴史博物館)

関東大震災は相模湾海底が震源であり、神奈川県内にも大きな被害をもたらした。神奈川県立歴史博物館の旧館部分である旧横浜正金銀行本店本館は、震災を耐え抜いた建築だ。展覧会は「震える大地」「奮う人たち」「原点は100年前」の3章構成。震災の被害図や、日誌や写真、復興過程の資料などが公開される。

会場:神奈川県立歴史博物館
会期:7月29日~9月18日

大正地震100年・元禄地震320年 2つの関東大震災と鎌倉(鎌倉国宝館、神奈川)

本展は関東大震災に加えて、320年前の江戸時代に起きた元禄地震にも注目。震災後の復興のなかでも、特に鶴岡八幡宮や鎌倉国宝館など寺社に焦点が当てられる。関東大震災の際、震源地に近かった鎌倉は被害が大きく、寺社内の尊像や宝物類も多数破損した。それらを修復すべく奈良の美術院から修理技術者たちが訪れ修理所が設けられたが、鎌倉市内のみならず神奈川県外の宝物にいたるまで、広く修理を請け負っていたという。自然災害と文化財の保護の歴史を知っておきたい。

会場:鎌倉国宝館
会期:7月22日~9月10日

関東大震災100年展示「1923―関東大震災を生きた人々―」(我孫子市杉村楚人冠記念館、千葉)

杉村楚人冠は、明治末期から昭和前期に東京毎日新聞で活躍したジャーナリスト。関東大震災で入院中の息子2人を失い、東京から我孫子市に移住している。本展では、朝日新聞社から発行された『大震災写真画報』や、楚人冠が携わった『大震災全記』などの資料が公開される。

会場:我孫子市杉村楚人冠記念館
会期:7月11日〜10月1日

関東大震災100年 - 地図に残る地殻変動と被災状況 - (地図と測量の科学館、茨城)

国土地理院本院に隣接する地図と測量の科学館は、関東大震災の調査記録を公開中。国土地理院の前身・参謀本部陸地測量部による、被害状況の図面や標高の変化など、貴重なデータを一挙に見ることができる。合わせて、災害に対する国土地理院の現在の取り組みも紹介される。

会場:地図と測量の科学館
会期:7月19日~10月1日

展覧会で見ることができる資料を通じて、関東大震災の被害の大きさを知り、いずれ起こるだろう巨大地震に備えておきたい。

浅見悠吾

浅見悠吾

1999年、千葉県生まれ。2021〜23年、Tokyo Art Beat エディトリアルインターン。東京工業大学大学院社会・人間科学コース在籍(伊藤亜紗研究室)。フランス・パリ在住。