甲斐荘楠音 春 1929(昭和4) 絹本金地着色・二曲一隻、95.9×151.4 cm ニューヨーク、メトロポリタン美術館蔵 Purchase, Brooke Russell Astor Bequest and Mary Livingston Griggs and Mary Griggs Burke Foundation Fund, 2019 / 2019.366
様々な領域を越境した表現者、甲斐荘楠音(かいのしょう・ただおと)の創作の全貌を回顧する展覧会「開館60周年記念 甲斐荘楠音の全貌─絵画、演劇、映画を越境する個性」が、京都国立近代美術館で開催される。会期は2023年2月11日から4月9日。同年7月には東京ステーションギャラリーにも巡回する。


甲斐荘は大正期から昭和初期に日本画家として活躍し、通念としての理想美を描き出すのではなく、美醜相半ばする人間の生々しさを巧みに描写した表現は戦前の日本画壇で高く評価された。だが1940年代初頭に画業を中断して映画業界に転身すると画家としての成果を顧みられる機会は減り、ふたたび評価されるのは、亡くなる直前の1970年代半ばまで待つことになる。

今日では「京都画壇の異才」として画家として知られる甲斐荘だが、その活動の重要性はジャンルを超えた越境性にある。
映画監督・溝口健二らを支えた風俗考証家としての活動。歌舞伎など演劇を愛好し、自らも素人芝居に興じた趣味人としての一面。女形としての演技や、異性装による「女性」としての振る舞い。そういった、これまでほとんど注目されてこなかった甲斐荘の側面にも光を当てるのが今回の展覧会の主旨である。


京都画壇の異才という側面だけでなく「複雑かつ多彩な個性をもつ表現者」としての
甲斐荘の活動を辿るべく、会場にはスクラップブック、写生帖、絵画、写真、映像、映画衣裳、ポスターなど、甲斐荘に関する資料のすべてが等しく展示される。
異色の日本画家から「複雑かつ多面的な個性をもつ表現者」へ。甲斐荘楠音を再定義する展覧会となるだろう。
