
ティアゴ・ロドリゲス By Heart—心で覚える Photo by Christophe Raynaud de Lage
「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2026」が、10月3日から25日まで京都市内各所で開催される。2010年に始まり、今年で17回目を迎える同フェスティバル。今回は「ポケットに石ころ」をキーワードに、他者の記憶や物語を運び、共有する場としての舞台芸術を考える場となる。

プログラムは、国内外の舞台作品を紹介する「Shows」、関西地域をフィールドワークする「Kansai Studies」、トークやワークショップを展開する「Super Knowledge for the Future[SKF]」の3部門で構成される。
この記事では、現代アートと舞台芸術を横断する作品を中心に、注目のプログラムを紹介する。
遠藤薫とミトゥ・センによる二人展は京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAで開催される。
染織を中心とする工芸的な技法を通じて、土地の歴史や政治、人々の生活をたどってきた遠藤は、「舟」のような大型構造物と、着物の帯や絨毯などのテキスタイルで構成する「二十二世紀の睡眠法」を発表する。10月3日と4日には、実験音楽バンドのMaher Shalal Hash Bazとともにパフォーマンスを行う。

ニューデリーを拠点とするミトゥ・センは、「ラディカル・ホスピタリティ」を掲げ、言語、制度的権威、社会規範を批評してきたアーティスト。新作「Unwritten Intimacy—暗黙の親密さ」では、マンガや春画に着想を得たドローイングを可動式キャビネットの内部に隠し、サウンドと観客参加を組み合わせる。何が見せられ、何が隠されるのかを通して、検閲や権力が親密さと欲望をいかに媒介するのかを問う。

展示は10月1日から11月8日まで。パフォーマンスは10月3日と4日に開催される。
梅田哲也は、追手門学院高校演劇部との新作『まだ来ていないことがもう来ている』を、ロームシアター京都 ノースホールで上演する。
インスタレーションや音響、ツアー形式のパフォーマンスなどを通じて、その土地にすでに存在する構造や物理現象、日常の営みを作品化してきた梅田。今回は、劇場を、異なる時間や場所で起きた出来事をひとつの空間に同時に立ち会わせる「装置」ととらえ、高校演劇を起点に、演劇部員やコラボレーター、劇場で働く人々との対話を重ねながら作品を制作。高校生たちの日常、劇場に蓄積された記憶、劇場の外で同時進行する出来事が舞台上で重なり、10代の声を通して過去と未来が交差する。10月3日、4日に上演。

ティアゴ・ロドリゲスは、代表作『By Heart—心で覚える』をロームシアター京都 サウスホールで日本初演する。
舞台上に10人の観客を招き、一篇の詩を暗唱してもらうことから始まる本作。ロドリゲス自身が語り手となり、戦争や抑圧に抗った作家たちの言葉と、視力を失いつつあった祖母との記憶を重ねていく。個人の記憶と20世紀の歴史を交差させながら、言葉を心に刻み、他者へ手渡すことを抵抗の手段として描く。

10月3日、4日に上演。英語上演、日本語字幕付き。
シンガポールを拠点に活動するホー・ルイアンは、レクチャー・パフォーマンス『歴史のすがた/知能の立脚点』を日本初演する。会場は京都芸術劇場 春秋座の特設客席。
現代アート、映画、パフォーマンス、理論を横断しながら、労働、テクノロジー、資本、統治システムの関係を研究してきたホー。本作では、生成AIが人間の経験や記憶の集積である「歴史」を学習するとき、その意味や文脈がどのように変質するのかを検証する。

舞台上の2つのスクリーンには、実在するアーカイヴ映像とリアルタイムで生成されるイメージが並べて投影され、冷戦期の国家計画や脱植民地化、インターネット黎明期の歴史をたどりながら、人間による歴史記述とAIによる機械的な認識のずれを浮かび上がらせる。生成AIの技術的な問題にとどまらず、機械に判断と思考を委ねる時代の倫理を問う作品だ。
10月10日、11日。英語上演、日本語字幕付き。
韓国国立現代美術館との共同企画では、キム・カンヨン、イ・ミンジン、パク・ミンヒによる3作品を一度に紹介するショーケース公演を実施する。会場はロームシアター京都 ノースホール。
キム・カンヨンの『隠された村』は、東アジアの神話を手がかりに、映像とサウンドによって、忘れられた記憶や人間の知覚が届かない世界を立ち上げるパフォーマンス。深海や宇宙を思わせる響きと映像を通して、感覚と認識の外部へと観客を導く。

イ・ミンジンのソロ作品『地平線のそばで(あいかわらず)』は、ダンサーが自ら表現する主体であると同時に、観客によって見られ、消費される対象でもあるという矛盾を扱う。ダンサーの身体に投影される期待やイメージを見つめながら、観客自身にも「どのように身体を見ているのか」を問い返す。

2017年以来、9年ぶりの参加となるパク・ミンヒは、新作『内聴の舞台』を発表する。韓国の伝統声楽ガゴクを現代的に再解釈し、声と声のあいだ、音節と沈黙のあいだに生じる時間を探る。観客は薄暗い空間で、微細な響きや沈黙の痕跡に耳を澄ませることになる。

公演は10月16日、17日。3作品を合わせた上演時間は約160分を予定している。
山下残、ベトナム・ハノイを拠点とする詩人・作家のニャー・トゥイェン、ホーチミンのアーティスト・コレクティブ、プロジェクト・デイ・サンは、新作『giọt-giọt|しずくたち』を、京都芸術センター 講堂で発表する。

京都、ハノイ、ホーチミンのアーティストが、対話や詩、ダンスノーテーションを記録した本を共同で制作し、そこからパフォーマンスを立ち上げるプロジェクトだ。
「giọt-giọt」は、ベトナム語で一滴一滴のしずくや、液体がぽたぽたと落ちる様子を意味する。観客が静寂のなかで本のページをめくる音が水滴のようなリズムとなり、それに導かれてダンス、朗読、対話が展開される。上演は10月22日から25日まで。
石原菜々子と金子仁司によるkondabaは、新作演劇『コンダバ川日誌』と、Kansai Studiesでの展示『コンダバ川の地形図』を発表する。劇団・維新派の元劇団員によって結成されたkondabaは、「場所」と「遊び」を創作のテーマとするユニット。建築物の構造や質感、土地に蓄積された時間、住民への聞き取りをもとに、場所と身体の関係から作品を制作してきた。

今回は、京都市伏見区の中書島を起点に、京都と大阪を結ぶ淀川水系を調査。かつて京都の玄関口であり、国内最大級の川港・伏見港を擁した土地を歩きながら、都市の誕生、近代化、現在へと続く時間をたどる。10月22日から25日まで、京都市呉竹文化センターにて。
Kansai Studiesでは、完成した作品だけでなく、その前段階にあるフィールドワーク、発見、思考の過程を公開する。日々の活動はnoteで発信され、10月3日から25日まで、京都芸術センター ギャラリー南で活動報告展示『コンダバ川の地形図』を開催。リサーチが作品へと変わっていく過程を、観客がほぼリアルタイムで追うことのできる企画となる。

いま、舞台芸術は記憶や身体、土地の経験をどう運び直すのか。KYOTO EXPERIMENT 2026は、その可能性を京都の各会場で問う機会となりそうだ。
KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2026
会期:10月3日〜25日
会場:ロームシアター京都、京都芸術センター、京都芸術劇場 春秋座、THEATRE E9 KYOTO、京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA、京都府立府民ホール “アルティ”、京都市呉竹文化センターほか
チケット発売:8月7日 12:00