公開日:2023年4月15日

イランの連続娼婦殺害事件を描いた映画『聖地には蜘蛛が巣を張る』についてイラン文学研究者・村山木乃実と語る。【連載】#MeToo以降の女性映画(6)

『ボーダー 二つの世界』のアリ・アッバシ監督最新作は、出身国イランで起きた実在の事件をもとにした『聖地には蜘蛛が巣を張る』。イラン国外で撮影したため検閲から逃れた本作が描く、イランにおけるミソジニーに迫る。

『聖地には蜘蛛が巣を張る』 © Profile Pictures / One Two Films

シリーズ「#MeToo以降の女性映画」は、「#MeToo」のハッシュタグとともに自身の性暴力被害を告発する人々が可視化され、この運動が時代を揺さぶる大きなうねりとなったいま、どのような映画が生み出され、それらをどのように語ることができるのかを考える連載企画。

「#MeToo」運動が一躍世界に広まったきっかけは、2017年10月に「ニューヨーク・タイムズ」紙がハリウッドでもっとも影響力のあるプロデューサーのひとり、ハーヴェイ・ワインスタインによる様々な女性たちへの性暴力とセクシュアル・ハラスメント疑惑を報道したことだった。以降、映画界の長年にわたるジェンダー不平等は様々なかたちで問題視されることとなり、こうした問題を意識的に取り上げる作家・作品も増えている。

連載第6回となる今回は、2000~2001年にかけてイランで16人もの娼婦が殺害された「スパイダー・キラー事件」を題材にした『聖地には蜘蛛が巣を張る』について、イランの文学や宗教を研究する村山木乃実を招き、語り合った。

『聖地には蜘蛛が巣を張る』 © Profile Pictures / One Two Films

検閲を逃れて描かれた、イランにおける性と暴力

イランはそもそも検閲が厳しく、女性の裸や暴力はご法度だ。性も直接は描けず、実際は女性は家にいる時はヒジャブを取るが、映画ではつけたままでいなければいけないなど、制約が多い。政府批判はもちろんできないし、『チャドルと生きる』(2000)や『オフサイド・ガールズ』(2006)などの政府批判となる作品を撮り(イランでは上映禁止)、2009年の大統領選挙で改革派を支持し保守派の政権と対立したジャファール・パナヒ(1960~)は逮捕された。その後釈放されたが、禁固6年の判決が下り、20年間にわたり映画製作や海外渡航が禁止された(2022年に投獄されたが、現在は恩赦により釈放されている)。

『聖地には蜘蛛が巣を張る』は、イランの聖地マシュハドで2000~2001年にかけて起きた、連続娼婦殺害事件を題材にしている。監督はアリ・アッバシ(1981~)。イランに生まれ、テヘランの大学に在学中にストックホルムに留学し、デンマークの国立映画学校で映画を学んだ。当初はイランで撮影を望んだが、当局から回答が得られなかったため、ヨルダンでの撮影に臨んだ。よって、イランの事件をイランの検閲を通さずに撮った映画となる。イランではタブーとされながら実際は存在する娼婦の様子がわかるのと、残忍な事件の詳細、そして何よりも犯人が妻や子供、同僚などから犯行を崇められる様子など、イランに蔓延るミソジニーを炙り出すおぞましくも痛烈な作品となっている。

対談
『聖地には蜘蛛が巣を張る』──事件そのものと類似作品

左から村山木乃実、夏目深雪

夏目 映画はどんなふうにご覧になりましたか?

村山 かなり重い映画だな、というのが第一印象です。あと、イラン国内で撮られたイラン映画に親しんできた自分にとっては、これは自分の知っているイラン映画ではないな、と思いました。検閲を経ていないので、曖昧なイメージを使ったりせずに、監督が描きたいことをストレートに描き切れている。

夏目 私の近年のイラン映画のイメージは、アスガー・ファルハディ(1972〜、『セールスマン』[2016]、『別離』[2012]など)が象徴的ですが、切迫した雰囲気のなか、人々が叫び合っているようなサスペンスフルなイメージです。

特にここ数年先鋭的な映画が多く公開され、それらは死刑問題についての映画が多い。イランは、背教罪、同性愛、姦通罪で死刑になり、未成年者や冤罪による処刑が後を絶たないということで、それに物を申すような映画が次々と製作され、公開されています。『悪は存在せず』(2020)を監督したモハマド・ラスロフは逮捕され、『白い牛のバラッド』(2020、ベタシュ・サナイハ、マリヤム・モガッダム)は上映禁止になりましたが。あと『ウォーデン 消えた死刑囚』(2021、ニマ・ジャウィディ)もありましたね。

その流れ──イラン社会や政府に物申す映画──という位置づけで考えると、本作もそんなに外れているわけではない。ただ、女性問題をここまで真正面から切り込んだ映画は私は初めて観た気がしました。

この映画の題材となったのが、イランでは非常に有名な「スパイダー・キラー事件」と呼ばれる事件だということですが、村山さんはどんなふうに見ていましたか。

村山 私は2016年に短期ですが、事件が起きたマシュハドに留学していたことがあるんですが、じつは事件に関してはこの映画を観るまで知らなかったんです。マシュハドに住んでいる友人に聞いたら「イランでは非常に有名な事件なんだよ」と色々と教えてくれて。

夏目 映画ではマシュハドの街の雰囲気は再現できている感じでしょうか?

村山 そうですね。かなりできていると思います。

『聖地には蜘蛛が巣を張る』 © Profile Pictures / One Two Films

夏目 犯人は逮捕されたあと、2002年に絞首刑となります。『聖地~』もかなりセンセーショナルな映画ではありますが、監督がそれを観たおかげで製作を決意したという『And Along Came a Spider』(2002、マジアル・バハリ)という同じ題材のドキュメンタリーを観たら、被害者女性の遺体のみならず、犯人の絞首刑の様子までもが映されているのに驚かされました。

フィクションは検閲のせいでかなり制約があるのに、どうしてこんなものが映像として残せるのかというのも不思議でした。監督はイラン系カナダ人ジャーナリストの方ですが。

実際の犯人、妻、息子が『聖地~』と顔や雰囲気がとても似ているのもゾッとさせられました。

村山 イラン国内で撮られた、同じ題材の『キラー・スパイダー』(2020、エブラヒム・イラジュザード)を観たんですが、事件発覚後に犯人の子供が父親のことを擁護するといった、『聖地~』では描かれていたようなシーンはまったく出てこないんです。

また、イランの検閲上、女性への激しい暴力はおそらく映せないんですね。『聖地~』ではその辺り、とても生々しく撮られていましたが。なので、実際の殺人シーンは撮らないで、最初と最後だけ撮ったり。また、人がひとり殺された、ということを、たとえば水槽の中の金魚を1匹掬うということで表現したり。

夏目 どちらの映画がいいと思われました?

村山 私は『聖地~』のほうがすべてが描かれているので、メッセージも伝わってきますし、監督の言いたいことが表現できている気がしていいと思いました。

夏目 『キラー・スパイダー』は『聖地~』の後半描かれた、息子や妻に犯人が崇められているというようなところまでは描いていないんですね。たんに、シリアル・キラーと彼が起こした事件を描いている。

村山 はい。あとは犯人の日常の、家族と過ごしていたり、仕事をしている様子にも焦点が当てられています。あとは犯人の奥さんですが、『聖地~』では犯人を崇めているような描写ですが、『キラー・スパイダー』では、彼女が被害者を擁護するシーンがあります。また、奥さん自身がタクシーに乗っていたら、急に暗いところに連れていかれて体を触られそうになったり。彼女自身もイラン社会で女性として被害者になりそうになるという描写があります。

夏目 ということは、『聖地~』よりも#MeToo寄りの映画なんでしょうか?

村山 検閲を通さなければいけなかった以上、#MeTooのメッセージも曖昧になってしまっていると思います。事件の解像度も『聖地~』に比べるとぼやけてしまっていますし。同じ題材を使っても、イラン国内と国外で作るとこんなにテイストが違うんだというのは、見比べてみると面白いと思います。

夏目 ただ私は『聖地~』の殺人のシーンは少し引っ掛かりました。連載の第2回目で扱った『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』(2022、マリア・シュラーダー)では、ワインスタイン事件のセクシュアルハラスメントが題材ですが、性暴力のシーンを映像で撮らなかったんですね。被害者の口述描写によってのみ表現している。それでワインスタインの性的暴力がいかにおぞましいか、それによって女性がいかに傷ついたかというようなことはまったく問題なく表現できています。

さすがに被害者女性との性行為のシーンはないですが、代わりに奥さんとの性行為のシーンがありますね。家庭ではまっとうな家庭人だということを描くには有効だったとは思いますが、アリ・アッバシは長編デビュー作『マザーズ』(2016)からして、代理母が妊娠しておかしくなっていき、赤ん坊が悪魔的な存在になっていくという物語です。『ローズマリーの赤ちゃん』(1968、ロマン・ポランスキー)を引き継いでいて、『聖地~』も殺人シーンの生々しさは、数多あるシリアル・キラーものを引き継いでいます。むしろそういったホラーやフィルム・ノワールなどのジャンル映画に愛着があるのではないかと。人間を爬虫類でも見るように描く冷徹な視線は、『ボーダー 二つの世界』(2018)ではとても上手く嵌っていたと思いますが。

『聖地~』をスタイルの点から「#MeToo以降の女性映画」と呼ぶのは難しい気がします。もちろんイランではタブーである娼婦の殺人事件を扱い、女性の視点を映画に取り入れたことによって、その括りに入れることは可能だと思いますが。

ただ『キラー・スパイダー』の金魚を掬って女性の死を表すというのも、それはそれでどうなんだという気もしますね。そう考えると、ドキュメンタリーなので同列に比較はできませんが、女性の遺体で表現した『And Along Came a Spider』がもっとも簡潔におぞましい犯罪を表していた気がします。

『聖地には蜘蛛が巣を張る』 © Profile Pictures / One Two Films

イランのセックスワークの問題

村山 セックスワーク自体がイランでは違法なので、あるのにないという扱いになってしまっています。『聖地~』でも、『And Along Came a Spider』でも、人として扱っていないですよね。同じ人間なのに、虫を殺すのと同じというような。

夏目 『And Along Came a Spider』で、犯人も息子も妻ももちろんゾッとさせられるんですが、犯人の同僚や友人が事件や犯人のことを喋るシーンもおぞましかったですね。笑いながら、「法は犯したけれど、彼は間違ったことはやっていない」「誰か引き継ぐべきだ」と言う。

村山 イランにおけるセックスワークの問題を知ったのは、『Tehran Taboo』(2017/アリ・スーザンデフ)というアニメーションがきっかけです。カンヌ国際映画祭でプレミア上映されたロトスコープ(実写映像を元にアニメーションにしたもの)のアニメで、『聖地~』のヒロインを演じたザーラ・アミール・エブラヒミも出演しています。このアニメーションは、ロトスコープの手法を使用することで、実写映画では描くことができないようなイランの街の一面を描いています。

ドイツを拠点に活動しているイラン人監督が撮った作品で、いわゆる「聖職者」が売春婦を家に呼んだりするシーンがあったりします。

夏目 作品のなかでは娼婦の方が殺されたり虐待されたりということはないわけですか?

村山 セックスワークをしているというだけで、虐げられたり、客から殴られたりという描写はあります。

夏目 セックスワークは貧しいから就く方が多いわけですよね。貧困の問題が解決していないのに、すべての皺寄せが娼婦の方にいってしまうというのはなんとも……。何か解決の兆しはないんでしょうか。

村山 ラジオ・フリー・ヨーロッパという、ペルシャ語のニュースも配信している番組で、イランのセックスワークの現状について扱ったことがあります (*1)。そのときに配信されたデータによると、セックスワーカーのおよそ半数が結婚していて、なかには家族から、お金が必要だからするように言われてやっているということでした。 

しかもイランは経済制裁を受けているので、そういった経済的な要請から奥さんや子供を性産業を働かせることが多いのではないかと想像します。さらにコロナ禍が追い打ちをかけて、絶望的な状況ではないかと思います。

『聖地には蜘蛛が巣を張る』 © Profile Pictures / One Two Films

夏目 娼婦に対する蔑視がそこまで強いというのは、やはり宗教の問題が大きいんでしょうか。

村山 イスラムの教えとしても、女性の行動を制限するようなものはありますが、私はどちらかというと文化の問題だと思っています。宗教ももちろん影響しているんですが、イスラムだからといって、どこの国でも女性を制限する文化を持っているわけではない。その地に根付いた、たとえば伝統的な家父長社会などが原因としては大きいのではないかと考えています。

イスラムの教えはいろんな解釈があるので、イランの場合は、現政権で権力を持つ男性にかなり有利な解釈をされて、政権それ自体も保守的になっているのだと思います。

夏目 あとは戦争の問題も大きいでしょうか。犯人はイラン・イラク戦争に行っていて、それが犯行動機に結びついているという描き方をされていましたね。

『聖地には蜘蛛が巣を張る』 © Profile Pictures / One Two Films

村山 イラン革命が1979年に起き、それまでアメリカと仲がいい政権(パフラヴィー朝)だったわけですね。それが上手くいかなくなって革命が起きました。イラン・イラク戦争はその翌年に始まった戦争です。イラン国内も混乱しているなかで始まった戦争だったので、新しくできたイラン・イスラム共和国もこの戦争を使って国内を立て直そうとしたところがあります。いわゆる聖戦として国民に呼びかけ、戦死者は殉教者のような扱いになるんですね。いまでも遺族に対する手厚いケアがあったりするんです。

犯人は、戦争で大きな功績を残すこともできなかったし、殉教することもできなかった。それが、男性としての「いづらさ」となっているんだろうな、と想像します。そういった、「何者かになれたはず」というフラストレーションが、自分より弱いと見なしている女性にすべて向けられてしまった。

『聖地には蜘蛛が巣を張る』 © Profile Pictures / One Two Films

夏目 この映画は、カンヌ国際映画祭で主演のザーラ・アミール・エブラヒミ(*2)が女優賞を受賞しましたが、イランの文化・イスラーム指導省はそれに対し非難する声明を発表しました。「この映画は、『悪魔の詩』と同じ末路を辿るだろう」と言っているらしいですね。イラン国内ではやはり観るのが難しいでしょうか。

村山 公開されなくとも、様々な手段で観たい人は観ていると思います。イラン国内で女性運動を頑張っている友人などは、「これは観るべき映画だ」と言っています。ザーラ・アミール・エブラヒミ自身も女性の解放運動に熱心な方ですし。

夏目 アリ・アッバシはこの映画に関し、「これがイランの現実だ」と言っていますが、映画プロデューサー・翻訳家で、日本で公開されるイラン映画の字幕などに関わっているショーレ・ゴルパリアンさんは「イランを離れている監督なので、極端だ」というようなことを仰っていました。外から見たイランなのか、イランの現実なのか、その辺りは村山さんはどのように思われますか。

村山 女性──特に年が若くて未婚の女性──の視点から見たイランというのは、とてもよく描けていると思います。ホテルに泊まろうとして拒否されるシーンが映画でもでてきますよね。あと、インタビューをしようと仕事で会っているのに、まったく話を聞いて貰えなかったりとか。その辺りは、いままで描いていそうで描かれていなかったところだと思うので。

夏目 ホテルで未婚の女性がひとりでは泊まりにくいというような経験は、村山さんもあるんですか?

村山 外国人だと多少緩和するところがあり、私自身はありません。ただ、イラン人の友人が、ひとり暮らしをしようと思って不動産に行ったら「君は未婚の女性なので部屋を貸すことはできない」と言われたといって泣いていたことがありました。

『聖地には蜘蛛が巣を張る』 © Profile Pictures / One Two Films

夏目 あと私は死刑の描写も面白いと思いました。死刑判決が下った後、牢獄に面会にきた犯人の知人である判事から、便宜を測って秘密裏に「逃がすから」と言われてその気になっているところを、結局は死刑執行日に無理やり吊るし首にされてしまうという……。冒頭で述べたような、恣意的で不平等な死刑制度への批判が込められているような気がしました。

福島(編集) アリ・アッバシのインタビューによると、実際の事件の裁判を追っていたジャーナリストが、犯人の最後の言葉が「取引のときと話が違う」だったと記事に書いていたそうなんです。それが具体的にはどんな交渉かはわからないんですけど、犯人と警察当局とのあいだになんらかの取引があったことを示唆していたという。

夏目 じゃあ、やはりかなり事実に忠実に撮っているんですね。

あとラストに主人公が見る、犯人の子供を撮ったビデオも印象的でした。作中で問題はいったん解決したのに、残された動画を見ると怖いというのは、ホラー映画の定型だなと思いました。死刑は執行されたのに、子供が犯人の精神をすっかり引き継いでいて、イラン社会自体はまったく変わっていかないのだという恐怖……。あの辺りはさすがに巧いですね。

『聖地には蜘蛛が巣を張る』 © Profile Pictures / One Two Films

スカーフデモの現状

夏目 最近はニュースで取り上げられることも少なくなりましたが、スカーフデモの現状はどんな感じでしょうか。

村山 沈静化といいますか、声をあげたくてもあげることもできないような状況になってしまっていると思います。

発端は、2022年の9月13日にマサ・アミニさんというクルド系の20歳くらいの若い女性が、たまたま家族でテヘラン市内を移動している時に、道徳警察からヒジャブの着用について咎められ逮捕されたことです。彼女は連行され、普通はそこで何時間か取り締まりを受けたり、罰金を払ったりして終わるんですが、何かがあって頭部を強く強打して亡くなってしまった。それがきっかけで広がったデモです。

イランのデモ自体は、もともと経済制裁を受けていることにより、経済問題からくるデモがずっとあったんですね。それが女性問題と結び付いて大きくなっていったという印象を持っています。9月、10月は大学や路上でデモが盛んだったんですが、だんだん取り締まりも強くなっていって、年末に入って抗議活動をしている何人かが死刑になったり、イランの治安部隊がゴム弾をデモ参加者の目に当てたり、最近は毒ガスを女子高校に撒かれる事件が相次いでいます。

夏目 これもセックスワーカーの問題と同じで、宗教や文化が複雑に絡み合っていて、解決は難しいんでしょうか。

村山 ヒジャブをかぶらなきゃいけないというのは、コーランで決められているわけではないんですよ。「美しいところや大事なところは慎み隠すように」という記述があるだけで、それを髪の毛としてとらえヒジャブを被らなくてはならないとするのは、解釈の問題になってきます。あと、ヒジャブの着用を義務付けている中東の国や地域は、いまはイランとタリバン政権しかありません。サウジアラビアではつい最近まで義務化されていたんですが、事実上撤廃されました。

夏目 ロシアに対しても経済制裁などで西欧諸国が働きかけていますが、そういった外圧は意味がないんでしょうか?

村山 自分たちの国がこうなってしまったのは、西欧諸国のせい、と思っているところがあるので……。やり方によっては逆効果になりかねません。

夏目 西欧諸国ではフェミニズムが流通していますが、そういった国々に対する反感が男尊女卑的な文化をより推し進める推進力になっているところもあるんでしょうか?

村山 それはあると思います。フェミニズム自体が西洋の価値の押し付けのように思っているところがあるのではないかと。

夏目 この映画は、イラン国内では描けないような方法で実際に起きた事件を赤裸々に描いた画期的な映画です。何か状況を変えるきっかけになり得るでしょうか?

村山 セックスワーク自体が違法でタブー視されているので、拒否反応はイラン国内でも多いと思うんですけど、これを機に自分たちの国、イランの現実の一部だと思うので、多くの人がそれらを知るきっかけになればいいと思っています。

*1──https://youtu.be/CV0u5G70zc0
*2──1981年7月9日生まれ。パリ在住のイラン人俳優。イラン国内で国民的女優として成功を収めていたが、第三者による私的なセックステープの流出によってスキャンダルの被害者となり、2008年にフランスへの亡命を余儀なくされた経験をもつ。

村山木乃実
むらやま・このみ 宗教学、ペルシア文学研究者。1991年栃木県生まれ。2022年東京外国語大学博士課程修了。東京大学特別研究員、独立行政法人日本学術振興会 特別研究員PD。現在は宗教学の視点から現代イラン知識人のペルシア古典詩を通じたコーラン解釈について研究を進める。主な論文に「文学で聖典を読み解く:ペルシア神秘主義文学がひらく「イラン」的クルアーン解釈」(『世界文学』(134)、2021年12月)、「理想的人間像と動的イスラーム:アリー・シャリーアティーの視点から」(『オリエント』(61)2019年3月)など。映画鑑賞と宝塚歌劇が趣味。過去に「イスラーム映画祭」や「死刑映画週間」で、上映されたイラン映画に対してコメントをした経験がある。


映画『聖地には蜘蛛が巣を張る』
4月14日(金) 新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、TOHOシネマズシャンテシネ他全国順次公開

監督・共同脚本・プロデューサー:アリ・アッバシ(『ボーダー 二つの世界』)
出演:メフディ・バジェスタニ、ザーラ・アミール・エブラヒミ 

原題:「Holy Spider」/2022年/デンマーク・ドイツ・スウェーデン・フランス/ペルシャ語/シネスコ/5.1 ch/118分/字幕翻訳:石田泰子/デンマーク王国大使館後援/映倫:R-15
gaga.ne.jp/seichikumo
© Profile Pictures / One Two Films
配給:ギャガ

夏目深雪

夏目深雪

なつめ・みゆき 映画批評、編集業、多摩美術大学非常勤講師。主な著書に、『岩井俊二:『Love Letter』から『ラストレター』、そして『チィファの手紙』へ』(河出書房新社 、2020)、『新たなるインド映画の世界』(PICK UP PRESS、2021)、『韓国女性映画:わたしたちの物語』(河出書房新社、2022)など。