ZEIT-FOTO kunitachiでは、2026年10月17日より北井一夫「IROHA」展を開催いたします。本展では最新作である〈IROHA〉シリーズを中心に、そこへ至る60年にわたる作家の軌跡の断片とともに展示いたします。〈IROHA〉は、北井が自身の過去のオリジナル・プリントを破り、その上に絵具を施した作品です。破れた写真の像と裂け目に、色彩や「い・ろ・は」「一・二・三」といった文字や形が重ねられ、それぞれ異なるイメージが生み出されています。
一見すると、オリジナル・プリントを破り、そこに絵具を加える行為は、写真をより強く一点物の作品へと変えるもののようにも見えます。しかし〈IROHA〉の魅力は、一点一点がもつ画面の強さと同時に、それらが連なることで生まれるリズムにもあります。裂け目、色彩、文字や形が反復と変奏を繰り返すなかに、北井が写真家として出発した頃の息づかいと、現在の手つきとが重なり合います。また〈IROHA〉は、北井の写真家としての歩みそのものを考えるうえでも興味深い位置にあります。雑誌という複数の写真が連なる場で発表を重ねてきた北井の写真は、のちにオリジナル・プリントとして、一点一点の作品としても広く鑑賞されるようになりました。〈IROHA〉では、そのオリジナル・プリントを作家自身が破り、絵具を加えることで、二度と同じものの存在しない作品へと変化させています。それでいて100点を超える本シリーズには、北井の写真がもともと備えていた連なりとリズムが、別の姿となって立ち現れています。
80歳を超えた北井が破いたのは、今から60年前、20歳のときに撮影した学生運動の写真でした。北井自身が「私の写真の始まりとなったプリント」と呼ぶそれらに手をかけた行為を、作家は「私自身への反抗だった」と振り返っています。過去を保存するのではなく、自らの原点を破り、そこに色や文字を重ねることによって、再び新しい制作へと向かう。〈IROHA〉には、写真家としての出発点と現在とが、一枚の画面の上で交差しています。加えて今回は、〈三里塚〉や〈フナバシストーリー〉、〈ライカで散歩〉等も出品されます。〈IROHA〉にあらわれた新たな現在と、その背後に積み重なる北井一夫の仕事を、ぜひこの機会にご覧ください。
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