土門拳は写真界屈指の名文家として知られ、写真作品のみならずエッセイや芸術論など多数の文章作品も残しました。本展は彼の哲学の総決算ともいえる晩年のエッセイ集『死ぬことと生きること』に収められた文章とそれらにまつわる写真作品を同時に展覧し、「写真」と「言葉」の繋がりを探る初めての試みです。
同書のタイトルに掲げられた「死」と「生」は、土門の生涯と作品に通底するキーワードであったといえます。戦争期に写真家として歩み始め、日本の国力を内外にアピールするための仕事に数多く携わる中で、伝統文化や人々の姿を力強く美しく写し出した土門のレンズは、戦後には写真集『ヒロシマ』に象徴されるような、傷ついた人々や社会の暗い現実に向けられるようになりました。一方ライフワークとして取り組んだ「古寺巡礼」シリーズは、今はもういない先人たちが残した仏像や寺院建築を通じ、日本人の歴史や美意識の在り処を見つめ直し、現在を生きる私たちを鼓舞しようとする取り組みであったといえます。あるいは、戦後間もない頃に幼い次女を事故で亡くし、似た年ごろ・背格好のこどもたちに頻繁にレンズを向けるようになったことも、土門の生涯が常に「死」と隣り合わせだったことを象徴するエピソードだといえるでしょう。
20世紀 / 昭和という激動の時代を生き抜いた土門の写真には、常に「メメント・モリ − 死を想え」の気配が漂っているかのようです。生命力みなぎる作品の数々と、それを裏打ちしていた峻厳な思想を、彼の写真と言葉で辿ります。
まだコメントはありません