公開日:2021年1月28日

TABユーザーと編集部が選ぶ2020年の展覧会ベスト10

Tokyo Art Beatのアプリで1年間に紹介した約4500件の展覧会・イベント情報の中からもっとも注目を集めた展覧会トップ10

コロナ禍で展覧会中止や延期が相次いだ2020年、Tokyo Art Beatが2020年に公開した展覧会・イベント数は約4500件。それらが全掲載され、「行った」「行きたい」のクリップ機能のあるTokyo Art Beatのアプリでクリップ機能の総数=票数として集計。TABアプリユーザの関心度がもっとも高かった展覧会ベスト10を紹介する。

ランキングとともに今年1年を振り返ってほしい。

 

1位:「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」

堂々の第1位は、東京都現代美術館で行われたオラファー・エリアソンの個展。アートを介したサステナブルな世界の実現に向けた試みで、国際的に高い評価を得てきたオラファー。日本で10年ぶりの大規模な個展であったこと、SNSやメディアを通しての反響、環境問題に対する取り組みなどが相乗効果を生み、今年一番の大きな注目を集めた。なお、去年の1位は森美術館の塩田千春展。

「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」展示風景 撮影:編集部

 

2位:「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」

2位は、森美術館にて2021年1月3日まで開催中の「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」。日本という枠を越えて広く国際的に活躍し、多様な地域や世代から高い評価を得るアーティスト6名の軌跡を初期作品と最新作を中心に紹介する展覧会には、草間彌生、李禹煥、宮島達男、村上隆、奈良美智、杉本博司が参加している。現代アート入門としてもおすすめの本展。6名のアーティストがこれまで出展した主要な展覧会歴、カタログ、展示風景写真、展覧会評などの資料が集まる「アーカイブ展示」は、作品同様に見逃せない。

「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」展示風景 撮影:編集部

 

3位:「ピーター・ドイグ展」

3位は、待望の日本初個展となった「ピーター・ドイグ展」。日本にもファンが多いドイグは、ゴーギャン、ゴッホ、マティス、ムンクといった近代画家の作品の構図やモチーフ、映画のワンシーンや広告グラフィック、自らが暮らしたカナダやトリニダード・トバゴの風景など、多様なイメージを組み合わせて絵画を制作してきた。初期作から最新作まで、大型の作品が多いのも特徴的な展覧会。コロナ禍での臨時休館を受け、展覧会の生中継、カタログ(一部)の期間限定公開するなどの試みも記憶に新しい。

「ピーター・ドイグ展」展示風景 撮影:編集部

 

4位:「光―呼吸 時をすくう5人」

東京を代表する美術館のひとつであり、多くのファンを持つ原美術館。約40年にわたって親しまれてきた同館が2021年にクローズすることは大きな衝撃とともに話題を呼んだが、そのフィナーレを飾る展覧会「光―呼吸 時をすくう5人」が4位にランクイン。今井智己、城戸保、佐藤時啓の写真表現に加え、コレクションから佐藤雅晴のアニメーションとリー・キットのインスタレーションが出品される本展は、会場に流れるドビュッシーの「月の光」(佐藤雅晴の作品の一部)も惜別の寂しさを誘う。会期は2021年1月11日までだが、すでにすべての予約が埋まっている。

「光―呼吸 時をすくう5人」展示風景 撮影:編集部

 

5位:「第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館展示帰国展 Cosmo- Eggs| 宇宙の卵」

5位は、2019年に行われた第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の日本館展示「Cosmo-Eggs|宇宙の卵」の帰国展。キュレーターの服部浩之を中心に、美術家の下道基行、作曲家の安野太郎、人類学者の石倉敏明、建築家の能作文徳という、専門分野の異なる4名が協働し、人間同士や人間と非人間の「共存」「共生」をテーマに構成された。じつは日本館は、石橋財団創設者の石橋正二郎が建設寄贈し、1956年に開館したもの。そのような歴史的つながりから、このたびアーティゾン美術館での帰国展が決定した。TABでは服部浩之へのインタビュー(聞き手:荒木夏実)も公開中。展覧会はすでに終了したが、コンセプトやねらい、会場の雰囲気はインタビューを通して知ることができる。

「第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館展示帰国展 Cosmo- Eggs| 宇宙の卵」展示風景 撮影:編集部

 

6位:「ヨコハマトリエンナーレ2020『AFTERGLOW―光の破片をつかまえる』」

3年に一度開催される現代アートの国際展「ヨコハマトリエンナーレ」が6位にランクイン。コロナ禍において続々と芸術祭が中止、延期になる中で開催を決定し、感染症対策を徹底しながら行った。アーティスティック・ディレクターを務めたのは、インド拠点の3名からなるアーティスト集団「ラクス・メディア・コレクティヴ」。出品アーティストは、ハイグ・アイヴァジアン、ファラー・アル・カシミ、モレシン・アラヤリ、ロバート・アンドリュー、青野文昭、新井卓ら約70組。国際的な活動を行いながらも日本では初展示となるアーティストが多く、会場を見て回るだけでも新たなアーティストを知る楽しみがあった。

「ヨコハマトリエンナーレ2020『AFTERGLOW―光の破片をつかまえる』」展示風景 撮影:編集部

 

7位:「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」

7位は、東京都現代美術館にて2021年2月14日まで開催中の「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」。東京に生まれ、アートディレクター、デザイナーとして、多岐に渡る分野で新しい時代を切り開きつつ世界を舞台に活躍した、石岡瑛子(1938-2012)の世界初の大規模な回顧展となる本展。石岡の活動は世界的かつ非常に多岐にわたり、権利関係も複雑なため、本展担当学芸員の薮前知子は「この規模での回顧展はもう実現しないのではないかと思う」と話す。作品、資料の数も多く、会場は写真撮影禁止。ゆったりと世界に浸りたいかたは、早めに訪れることをおすすめしたい。

「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」展示風景 撮影:編集部

 

8位:シャルロット・デュマ 「ベゾアール(結石)」

8位は、風に吹かれる馬のメインビジュアルが印象的なシャルロット・デュマ 「ベゾアール(結石)」。現代社会における動物と人の関係性をテーマに、20年にわたって騎馬隊の馬や救助犬など、人間と密接な関係を築いている動物たちを被写体としたポートレイト作品を発表してきたデュマ。メゾンエルメスで行われた本展では、近年は日本を訪問し、北海道、長野、宮崎、与那国島など全国8ヶ所を巡り、現存する在来馬を撮影し続けてきたデュマの映像作品3点を中心に展示された。

シャルロット・デュマ 「ベゾアール(結石)」展示風景 撮影:編集部

 

9位:「生命の庭 ― 8人の現代作家が見つけた小宇宙」

緑豊かな自然に囲まれ、旧朝香宮邸でもある東京都庭園美術館。同館で2021年1月12日まで開催中の「生命の庭 ― 8人の現代作家が見つけた小宇宙」が9位にランクイン。出品作家である青木美歌、淺井裕介、加藤泉、康夏奈、小林正人、佐々木愛、志村信裕、山口啓介の作品を通して、人間と自然との関係性を問い直す試み。

「生命の庭 ― 8人の現代作家が見つけた小宇宙」展示風景 撮影:編集部

 

10位:「ジャム・セッション 石橋財団コレクション × 鴻池朋子 『鴻池朋子 ちゅうがえり』」

10位は、アーティゾン美術館で行われた、東京では11年ぶりの鴻池朋子の大規模展「ジャム・セッション 鴻池朋子 ちゅうがえり」。地球断面図、竜巻、石、すべり台などからなる大襖絵の新作インスタレーション《襖絵》や、複数枚の牛革を支持体とした、12×4メートルにおよぶ《皮トンビ》(2019)など、迫力ある作品が揃った本展。Tokyo Art Beatでは、これまでの活動や本展の内容に迫ったインタビューや、動画も公開中。

「ジャム・セッション 石橋財団コレクション × 鴻池朋子 『鴻池朋子 ちゅうがえり』」展示風景 撮影:編集部

 

番外編:TAB編集部が選ぶ2020のベスト展覧会

「Public Device – 彫刻の象徴性と恒久性」(東京藝術大学 大学美術館・陳列館)
2020年はまさか2、3ヶ月も展覧会を見ない日が続くとは思わなかった。鑑賞する立場からは、開催されないオリンピック・パラリンピックを批判して溜飲を下げることすらできないまま、海外からの渡航者へ企図した大味の(それでもなんとか開かれた)展覧会を眺める寂しい1年だった。そんな年の瀬に、「Public Device」展では「あいちトリエンナーレ2019」で噴出した日本社会の課題と、改めて誰も納得できないままの状況とを再確認した。彫刻の台座のように、地続きの問題は目を伏せることはできず、2021年も風雨にさらされても立ち続けなければならない。(Xin)

「森村泰昌: エゴオブスクラ東京2020―さまよえるニッポンの私」(原美術館)
廣瀬智央 「地球はレモンのように青い」(アーツ前橋)
「ジャム・セッション 石橋財団コレクション × 鴻池朋子 『鴻池朋子 ちゅうがえり』」(アーティゾン美術館)
「千葉市美術館拡張リニューアルオープン・開館25周年記念 宮島達男 クロニクル 1995−2020」(千葉市美術館)

通年で「個展」がおもしろい年だった。新型コロナウイルスの影響で変化した諸々に、場当たり的に応答したキュレーション展よりも、アーティストが生涯にわたり考え制作した、その道筋や姿勢が見える「個展」に力を感じた。(Natsuki)

高橋士郎「古事記展 神話芸術テクノロジー」(川崎市岡本太郎美術館)
For me, the most memorable exhibition this year was Shiro Takahashi’s “Kojiki Exhibition: Mythological Art Technology.” Takahashi’s robotic inflatables of characters from Japanese tales about the origins of the gods filled the halls of the Taro Okamoto Museum of Art, Kawasaki. The combination of technology, tradition, and pure wackiness was as charming as it was strange and profound, making me think of all the ways we perpetuate stories and the importance of doing so. It was also impossible to overlook the balloon of Amabie, an icon of our pandemic year. (Jenni)

青木野枝 「霧と鉄と山と」(府中市美術館)
感染症の流行によって他者との距離感を意識するようになり、目には映らない「空間」のスケールに敏感になりはじめていた時期に展示を観に行きました。青木野枝さんの個展は改めて意識し始めていた「空間」についての新たな視点や感覚を与えられる機会になったと思います。展示室を覆い尽くすほどの巨大な立体作品は視界を大きく遮り、展示空間と自分のスケール感を掴む感覚が失われ圧倒されつつも、作品のフォルム、マテリアルの質感が大きく空間を巻き込みながら立っている様子に生で作品を見る歓びを強く感じました。小作品やドローイングも含め、美術館に行って見るからこそ良さを感じられる展示だったと思います。(Mayo)

「ジャム・セッション 石橋財団コレクション × 鴻池朋子 『鴻池朋子 ちゅうがえり』」(アーティゾン美術館)
インタビューで鴻池が語った「しっかり自分のアートという仕事で決着をつけていってみようと考えています」という言葉を裏付けるような、迫力ある力強い展覧会だった。コロナ禍で感染対策を徹底したうえでの開催。私がちょうど会場を訪れた際、作品の触れる部分をスタッフが除菌している現場に遭遇したのだが、作品の持つ野生的で強烈なエネルギーと、美術館のクリーンな聖性が戦い合うかのような、すごみのある光景をつくり出していた。(Chiaki)

高橋士郎「古事記展 神話芸術テクノロジー」展示風景 撮影:編集部

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