「LINDER: GODDESS OF THE MIND」(シャネル・ネクサス・ホール)の会場で行われたギャラリートークの様子。中央が野中モモ 撮影:北原千恵美
東京・銀座のシャネル・ネクサス・ホールで開催中のリンダー・スターリングの展覧会「LINDER: GODDESS OF THE MIND」にあわせ、Tokyo Art Beatでは初の試みとなる会員限定ギャラリートークを開催した。案内役に翻訳家・ライターの野中モモを迎えて行われた当日の様子をレポートする。
本展は、1970年代から半世紀にわたり、コラージュや写真、映像などを通してジェンダーや身体、消費社会を問い続けてきたアーティスト、リンダー・スターリングの大規模かつ日本で初めての回顧展。今年4月から5月にかけて、「KYOTOGRAPHIE 2026」のプログラムとして、京都府京都文化博物館別館で開催し、話題を集めていた。
東京での巡回展は、このために制作された新作も加わり、過去の代表作のシリーズや、リンダー自身が語る映像作品など、多彩かつ批評性に富んだ創作の軌跡をたどることができる構成だ。
ギャラリートークの案内役を務めたのは、イギリスでの生活を経て、現在は東京を拠点に翻訳家・ライターとして、フェミニズムや音楽、ZINEカルチャーなどについて発信を続ける野中モモ。本展の開幕に合わせて来日したリンダーへのインタビューでは聞き手を務め、イギリスの音楽シーン、とりわけパンクミュージシャンらとの出会いや、アーティストとしての歩み、創作にかける思いなどを掘り下げて聞いた。
イベント当日、リンダーの作品や会場の空間をイメージしたコーディネートなど、思い思いのスタイリングで閉館後のギャラリーに参加者たちが集った。まずは本展に合わせて考案されたスペシャルカクテルやノンアルコールドリンクが来場者にサーブされる。よく冷えたドリンクでクールダウンし、リラックスした雰囲気のなかで、野中によるギャラリートークがスタートした。
トークでは3つの展示空間をゆったりと巡りながら、様々なエピソードとともに作品の背景や見どころなどが、野中の視点で語られた。
エントランスを進んだ先、最初の空間では、リンダーがキャリア初期に手がけた作品や、コラージュのシリーズが展示されている。野中は、リンダーが1976年7月、マンチェスターの街を走るバンの車体に貼られたコンサートの告知ポスターをたまたま目にし、足を運んだのが、のちに伝説として語られるセックス・ピストルズのマンチェスター公演だったことを紹介。
「パンクは権威に対抗して暴れ回るようなイメージがあるかもしれませんが、それだけじゃないんです」と野中。「パンクの中には、大資本による商業的なシステムが出来上がっているなかで、もっと草の根で自分たちにとってリアルなものを作ろうとした人たちがいます。制作、発表、流通、批評、そして消費も、自分たちの手で主体的にやっていこうというDIY精神に基づいて動いていた人たちがいる。それを率先していたのがバズコックスでした」と、リンダーの創作にも通じるパンクの精神を解説してくれる。
わずかな人数だったという観客のひとりとしてライブを見届けただけではなく、リンダーはパンクバンド・ バズコックスのメンバー、ハワード・ディヴォートと知り合い、のちに彼らが自主レーベルからリリースした代表曲『オーガズム・アディクト』のジャケットを手がける。そんな当時の音楽シーンとのつながりとともに、頭部にアイロンを配したヌード女性のモンタージュ作品についてや、リンダー自身もルーダスというバンドで音楽活動を始めたことなどが野中の口から語られた。

またリンダーは、たくさんの女性モデルのイメージを用いたコラージュ制作を続けるうち、「自らも被写体にならなくては」と決意。1981年に制作した「セルフモンタージュ」の作品《She/She》シリーズでは、物撮りのフォトグラファーだった友人に、敢えて自分を「物」として撮影することを依頼した、というエピソードも。野中は、グラマラスなリンダーのイメージとラップなどの日用品とのギャップ、引用されたルーダスの歌詞のタイポグラフィなど、様々な意味合いやイメージを想起する作品の魅力を紹介する。当時リンダーが音楽評論家ジョン・サヴェージと制作し、これらの作品の発表の場となったZINE『THE SECRET PUBLIC』についても語った。
