公開日:2023年3月9日

「国立アートリサーチセンター(NCAR)」が3月28日に発足。センター長には森美術館館長の片岡真実が就任

美術館のコレクション活用やデータベースの構築など、国内外に向けた日本のアート振興を促進する

「国立アートリサーチセンター(NCAR)」ホームページ

日本のアートを国際的につなげ、深め、拡げる。アート振興のための国立センターが誕生

2023年3月8日の記者会見において、「独立行政法人国立美術館 国立アートリサーチセンター(NCAR)」が同年3月28日に発足することが発表された。

同センターは東京国立近代美術館(1952年発足)、国立西洋美術館(1959年発足)、京都国立近代美術館(1967年発足)、国立国際美術館(1977年発足)、国立新美術館(2007年発足)、国立映画アーカイブ(2018年発足)、国立工芸館(2020年に東京国立近代美術館工芸館が金沢に移転)に続く、8番目の国立美術館の機関となる。

センター長に就任するのは森美術館館長の片岡真実。副センター長には原田真由美山田亜紀子。略称の「NCAR」は「エヌカー」と読む。

国立アートリサーチセンター(NCAR)組織図 ※プレスリリースより引用

同館のキーワードは「アートをつなげる、深める、拡げる」。日本国内の美術館と協働してアート認知・評価の向上を目指す「美術館コレクションの活用促進」。国際的な調査研究拠点の機能確立を目指す「日本のアートに関する情報資源の集約・発信」。日本のアートの国際的価値の向上を目指す「海外への発信・ネットワーク」。アートの社会的価値の向上を目指す「ラーニングの充実」。これら4つを柱として、国立美術館各館、全国の美術館・学芸員、海外の美術館・キュレーター、国内外の研究機関・研究者、ギャラリー、教育関係者、企業、福祉関係者などの多様な社会との連携を推進していくという。

センター長に就任する片岡真実

「美術館コレクションの活用促進」のグループリーダーを務めるのは大谷省吾。「国立美術館 コレクション・ダイアローグ」「国立美術館 コレクション・プラス」と呼ばれる2つの連携事業を進め、全国の美術館から展覧会企画を公募し、国立美術館のコレクションを主体とした展覧会、あるいは数点程度の同コレクションを加えた展覧会を全国各地で開催するという。例えば2021年に山形美術館で開催された「山形で考える西洋美術 ──〈ここ〉と〈遠く〉が触れるとき」は、その先行事例の一つだ。また、作品の保存修復の取り組みや調査研究の情報発信も「美術館コレクションの活用促進」の枠組みで実施。海外から保存修復の専門家を招いたワークショップの開催などを検討中だ。

「日本のアートに関する情報資源の集約・発信」のグループリーダーを務めるのは川口雅子。文化庁アートプラットフォーム事業により構築されたデータベース「全国美術館収蔵品サーチ(SHŪZŌ)」を継承し、日本全国の美術館の収蔵品情報の可視化と国際共有化を目指すほか、2010年度から続く「メディア芸術データベース」の継承も準備しているという。また、国際的リサーチセンター機能確立に向けた活動として「日本のアーティスト事典(仮称)」を立ち上げ、日本の作家の基本データのみならず、主要な展覧会・所蔵先・文献などの情報も日英2ヶ国語で提供していく。

「ラーニングの充実」のグループリーダーを務めるのは一條彰子「健康とウェルビーイング事業」として、福祉・医療分野の機関や大学などと連携して調査研究を実施。超高齢化社会に向けての美術館プロジェクト、健康とウェルビーイングに関する国際シンポジウムなどを行なっていくほかに、美術館やアートへのアクセシビリティ向上に向けた資料やツールなどの開発もしていくという。

「海外への発信・ネットワーク」については、今年4月にグループを発足させて具体的な事業を検討していく。

記者会見の様子

上記したいくつかの事業が示すように、NCARは2018年度から活動を続けてきた「文化庁アートプラットフォーム事業」で行なってきた日本国内のアート作品のデータベース化、国際交流の組織的な推進の延長上にあり、その成果を具体化・組織化した機関だ。美術館・博物館のような拠点は九段下に設置されるオフィス以外は持たないが、モデルとしたのは、英国のテート・モダンのリサーチセンターや、シンガポール国内の各美術館の収蔵品を専門機関が一括して管理する「ナショナルヘリテージボード」であるという。

片岡真実センター長によるプレゼンテーションで示された「アジア地域の現代アート・マップ」。美術館、国際展、アートフェアなどが示されている

記者会見冒頭に登壇した文化庁長官・都倉俊一はNCARを「日本のアートが世界のアートに打って出る組織」と説明。いっぽう、独立行政法人国立美術館・理事長の逢坂惠理子「社会の変化が増すなかで、すべての人が多様な見方に出会い、共生できる環境が求められている。そのなかでアートが果たす役割は大きい。変容する社会のなかで持続的に日本のアートを発信する拠点を目指す」と述べた。

片岡真実センター長は「文化庁では『アートのエコシステムの強化』ということを言っているが、NCARはアートそのものの芸術的価値、社会的価値づけを中心に行なっていくことになると思う。経済的価値の向上への直接的な関与はなかなか難しいと思うが、センターが活動することによって民間のレベルでアートのマーケットを大きくしていく必要もある。国によってはアートマーケット醸成を支援する事例もある。そういったものとも柔軟に関わりながら、持続的なエコシステムをいかに作っていくかは今後も議論していくことになるだろう」と述べた。

「国立アートリサーチセンター(NCAR)」のウェブサイトは本日15時からオープンしている。

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