公開日:2023年8月30日

入場無料のメディアアート×テクノロジーの拠点「SusHi Tech Square」がオープン。第一期の展覧会は「わたしのからだは心になる?」展

会期は8月30日~11月19日。出品作家はAlternative Machine、神楽岡久美、筧康明+赤塚大典+吉川義盛、小鷹研究室 as 注文の多いからだの錯覚の研究室、Synflux、ソンヨンア+鳴海拓志+新山龍馬+勢井彩華、ノガミカツキ、花形槙。

会場入口

東京都は8月30日、「持続可能な新しい価値」を生み出す「Sustainable High City Tech Tokyo =SusHi Tech Tokyo」を推進する取組の一環として、メディアアートとテクノロジーの体感拠点「SusHi Tech Square(スシ・テック・スクエア)」をオープン。その第1期展覧会として「わたしのからだは心になる?」展が8月30日~11月19日にわたって開催される。展覧会のクリエイティブディレクターは田尾圭一郎、キュレーターは塚田有那。

本展に集まる作品は、現代における「身体」のありようをそれぞれのかたちで問いかける。「テクノロジーが進化したからと言っても、身体はままならないまま。身体の中に眠る多様なイメージを見たい」と塚田は話す。

機械と身体

第1のゾーン「機械と身体」では、鷹研究室 as 注文の多いからだの錯覚の研究室、筧康明+赤塚大典+吉川義盛、ソンヨンア+鳴海拓志+新山龍馬+勢井彩華の3組が展示。

小鷹研究室 as 注文の多いからだの錯覚の研究室は、テクノロジーを用いた独自の体験装置を通して、自分がいま見ている自分の身体が自分から離れていくような「観察対象としての身体」を体験できる。

会場風景より、小鷹研究室 as 注文の多いからだの錯覚の研究室の展示

筧康明+赤塚大典+吉川義盛の《Air on Air <forest/sea/city>》は、会場にあるマイクに向かって息を吹きかけると、その情報がリアルタイムで遠隔地に伝わり、シャボン玉となって空に放出される様子を見ることができるという仕組み。

会場風景より、筧康明+赤塚大典+吉川義盛の《Air on Air <forest/sea/city>》

ソンヨンア+鳴海拓志+新山龍馬+勢井彩華の《Puff me up!》では、従来のロボットのイメージを覆すような、身体に装着する「やわらかい分身ロボット」の数々が集結。

会場風景より、ソンヨンア+鳴海拓志+新山龍馬+勢井彩華の展示

子供から大人まで、幅広い年齢層の人々がスムーズに楽しみ、考えることができそうな作品が集まるのがこの第1ゾーンだ。

バーチャルな身体

第2のゾーン「バーチャルな身体」では、ノガミカツキ、Synfluxが展示。近年、オンライン空間で自身のアバターを通して他のユーザーとの交流やイベント参加したりできるVRチャットが大きな盛り上がりを見せているが、ノガミカツキはそうした状況を背景に、VRによって身体感覚が侵食される状況に抵抗を試みるパフォーマンス型作品《仮想支配》を発表。会期中には本人によるパフォーマンスも予定されている。

会場風景より、ノガミカツキ《仮想世界》

このほど、ファッションデザイナーの登竜門でもある「毎日ファッション大賞」で新人賞・資生堂奨励賞を受賞した川崎和也が代表取締役CEOを務めるSynfluxは、仮想の未来空間「WORTH」で、ユーザーが自ら改造できる「アバタースキン」を提供し、デジタル時代の自己とファッションの関係を問いかける。

会場風景より、Synflux《WORTH Customizable Collection: KEMONO》
会場風景

社会のなかの身体

第3のゾーン「社会のなかの身体」では、花形槙、神楽岡久美の作品を紹介。花形槙の《Uber Existence》は、その名の通り「Uber」に着想を得た作品で、自分の体が「そこにいること」自体を提供する「存在代行」サービスのこと。たとえば「お祭りに行きたい」という指示がユーザーから入れば、存在代行者(アクター)は帽子にカメラを付けてお祭りを訪れる。プレス用内覧会でも、花形に代わりひとりの男性(「アクター」という役割を持つ)がマネキンのようにそこにただ立っており、取り付けられたマイクから花形のコメントがリアルタイムで聞こえてくるという仕掛けが。ブースのなかでは実際にアクターを行った人物らのコメントが掲示されており、その内実を知ることでディストピア系SF作品を読んだ後のような感覚が残る。

クリエイティブディレクターの田尾圭一郎、キュレーターの塚田有那と、マイクを向けられる「アクター」
会場風景より、花形槙《Uber Existence》

歴史上、人類の身体に影響を与え続けてきた「美力(美的価値)」に注目した活動を行ってきた神楽岡久美は、美の変遷の歴史を参照しながら、1000年先、地球温暖化が進んだ厳しい環境下での「未来の美」を提案する。

会場風景より、神楽岡久美の展示

環境と身体

第4のゾーン「環境と身体」では、Alternative Machineが《Enabling Relations》を出品。本作は、人間がインターネットによって遠隔での交流を実現したように、植物や昆虫同士でも、現代の技術によって物理世界ではありえなかった関係軸を生み出せるかを探求する実験プロジェクト。東京都内の街路樹と、土・水・風の流れなどとの関係性を調べ、別々の場所で生息する植物同士がネットワークをつくる実験を行う。さらには、人間の活動がそれらの生態系と関わり合うことができるのか、新たな接続の在り方を模索していくのだという。

会場風景より、Alternative Machine《Enabling Relations》

本展から投げかけられる2つの問い

プレイグラウンドと名付けられた会場中央のエリアは、会話を楽しんだり、リモートワークをしたり、思い思いに時間を過ごすことができる「自由な余白地帯」だと、クリエイティブディレクターの田尾圭一郎は話す。同エリアで来場者がコメントを書き記すことのできる「ボイスウォール」には「わたしのからだは〇〇になる?」「わたしの心は〇〇になる?」という2つの問いが。展覧会を見た後には、その答えを書き残していってみてほしい。

思い思いに時間を過ごせる「プレイグラウンド」

野路千晶(編集部)

野路千晶(編集部)

のじ・ちあき Tokyo Art Beatエグゼクティブ・エディター。広島県生まれ。NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]、ウェブ版「美術手帖」編集部を経て、2019年末より現職。編集、執筆、アートコーディネーターなど。