公開日:2021年10月18日

まだ見ぬ京都の景色を探して。「ALTERNATIVE KYOTO もうひとつの京都」レポート(前編)

宮津市天橋立をはじめとした京都府内6エリアで開催する、京都府域展開アートフェスティバル

この秋、京都がアートで紅葉にも劣らぬ賑わいを見せそうだ。10月17日まで京都国際写真祭 KYOTOGRAPHIE 2021が行われ、11月にはアートフェアArt Collaboration Kyotoの初開催も控えている京都。ここで、宮津市天橋立をはじめとした京都府内6エリアが舞台の、京都府域展開アートフェスティバル「ALTERNATIVE KYOTO−もうひとつの京都−想像力という〈資本〉」が行われる。会期は9月24日〜11月7日(一部エリアは10月1日、10月8日など開始時期が異なる)。参加作家は全25組。ディレクターは八巻真哉(京都府文化スポーツ部文化芸術課)。

今回のレポート前編では、宮津・天橋立、京丹後、与謝野の3エリアを紹介する。レポート後編はこちらから。

京丹後エリアの海。三津漁港荷捌き場ではBIENが、三津漁港冷蔵庫では石毛健太が作品を発表している

 

デジタルアート中心の宮津・天橋立エリア

日本三景の一つ、天橋立エリアでは、有形文化財や名勝、景観、豊かな自然等を題材としたデジタルアートの世界を体験。「天(アマ)への架け橋」のテーマのもと、光や映像、サウンドを用いたデジタルアートによる幻想的な世界を演出する。

会場風景より、ヤノベケンジ《黒い太陽》。遠くに天橋立も見える

高台から天橋立を望める丹後国分寺跡では、ヤノベケンジが「The Dragon Bridge (龍の橋立)」を発表。丹後の国分寺ではかつて、天然痘の流行終息を祈って七重塔や寺院が建てられたが、ヤノベはその跡地に新型コロナウイルス感染症の流行終息を願って《ラッキードラゴン》を設置した。「サヴァイヴァル」をテーマに大型彫刻を通して放射能や災害の問題に向き合ってきたヤノベなりの伽藍(がらん)だ。

11月5〜7日には18:00より不定期で《ラッキードラゴン》の口から火が噴出し、七重塔と天橋立のオマージュとして「炎の塔」「炎の橋」をつくるパフォーマンスが行われる。そんな《ラッキードラゴン》の目線の先には、気候変動に対する思いを背景につくられた《黒い太陽》が。会期中全日展示されているが、作品ライトアップは18:00〜21:00の3時間のみ。この時間を狙って訪れたい。

会場風景より、ライトアップされた《ラッキードラゴン》
会場風景より、ライトアップされた《黒い太陽》。赤、オレンジなど色が移り変わる

伊勢神宮に奉られる天照大神、豊受大神がこの地から伊勢に移されたという故事から、元伊勢と呼ばれる元伊勢籠神社(このじんじゃ)。ここでは、音楽家の原摩利彦とプログラマーの白木良によるオーディオビジュアルインスタレーション《Altered Perspectives》が展示される。宮津・天橋立エリアの変遷と、参道の延長線が天橋立と交差することから着想を得た本作は、40本のLEDと8分のシーケンス(映像のまとまり)からなる作品。「地球一周分の海と空の、明け方から夜までのグラデーションを映しています」と原は話す。ゆっくりと移り変わる色合いと電子音のコントラストが静謐なロケーションに似合う本作は、金・土・日・祝のみ公開される。

会場風景より、原摩利彦と白木良による《Altered Perspectives》
《Altered Perspectives》(部分)。40本のLEDと8分のシーケンスからなる

天橋立公園まで足を運べば、平井真美子と長町志穂の《Light and Sound》を、海を望む砂浜で楽しめる。映像音楽を中心に活動する音楽家、平井の新曲と、光の環境をデザインする照明デザイナー長町が、音と光の演出によって波が打ち寄せる砂浜を幻想的な世界に変容させる。(*9月30日まで)

会場風景より、平井真美子と長町志穂の《Light and Sound》。会場で聞こえる実際の波の音と作品が相交わる

なお、同公園内の小天橋広場エリアでは、10月15日より池田亮司の《data.flux [LED version]》が公開予定。全長約24メートルの大きなLEDスクリーンが映し出す映像は膨大なデータの組み合わせによって構成され、緊密に同期されるサウンドとともに鑑賞者を「完全な感覚体験」へと導くというもの。公開を楽しみに待ちたい。

 

京丹後エリアのテーマは「風景泥棒」

10月1日から11月7日にかけ、京丹後エリアでは「風景泥棒 3 -Landscape Rippers 3-」をテーマに作品展示が行われる。会場となるのは元工場、漁港の荷捌き場などの特色ある場所だ。

元田重機業(株)織物工場ではSIDE CORE、石毛健太、DAISAK、NTsKi、川勝小遥が作品を発表する。じつは、2018年より京丹後で継続的に作品制作に取り組んできたSIDE COREらは、現代では無人となり、数も減っていく灯台自体を神話の巨人に擬え「岬のサイクロプス」という作品タイトルで発表してきた。SIDE COREメンバーの松下徹は「4年間の関わりを通して、街の資源をどう使うかの蓄積ができてきました。インスタレーションとしては完成度があがってきていると思う」と、ひとつの土地に長く向き合うことで見えてくる新境地を語った。

会場のひとつ、元田重機業(株)織物工場

SIDE COREは今回、SIDE CORE(EVERYDAY HOLIDAY SQUAD)名義で経ヶ岬灯台に関する連作の最終作品「岬のサイクロプス 2021」を発表。経ヶ岬灯台にアクションを起こす作品から始まり、灯台と周辺の軍事的背景、灯台が建設された厳しい気候や地形やについてなど、灯台を通して見えてきた京丹後の近代史に焦点を当てる。海岸の石の関わりについての考察がベースとなる椅子を発表。それらは実際に座ることも可能だが、石の写真やその周辺に何が写り込み、置かれているかに注目してほしい。

会場風景より、SIDE CORE(EVERYDAY HOLIDAY SQUAD)《岬のサイクロプス 2021》。大小様々な椅子には実際に座ることができる

「見える」に向き合うのは、美術家でエキシビジョンメイカーの石毛健太。石毛も4年にわたって京丹後を訪れてきたが「社会や周囲の環境、自分自身めまぐるしく変化するなかでも京丹後の空や山、海は変わらない」と話す。会場では「風景を観る」ではなく「光景がみえる」ために、太陽光の反射が外景として映り込む装置と、太陽光を収斂して発火させる装置からなるインスタレーション《みえる》をつくった。

会場風景より、石毛健太《みえる》

同会場では、DAISAK、NTsKi、川勝小遥の3名による《ドルフィン・マン》も展示される。京丹後では稀に野生のイルカが目撃できるというが、そのエピソードに加え、学生時代を京丹後で過ごしたNTsKiが、海沿いに住む謎めいた人物に好奇心を抱いていたという実体験を掛け合わせて生まれた「ドルフィン・マン」が住む小屋、映像作品が向かい合って置かれる。小屋の中を覗き込めば、そこにはイルカにちなんだ小物やインテリアの数々が。多くの人の幼少期の記憶の中に潜む「謎めいた人物」への好奇心を思い出させるに違いない。

会場風景より、《ドルフィン・マン》
イルカにまつわるグッズが集まる《ドルフィン・マン》の小屋。外から覗き見ることができる

そこから徒歩3分ほどの場所にある元油善鉄筋工場では田中良佑、鷲尾怜が作品を発表。田中良佑は4年間、大積雪によって一度は廃村となった味土野の集落に通い、そこに移り住んで暮らす(暮らしていた)3名の人々の生活を取材した作品を制作。《降り積もる影》として、今回は集大成の全作品を展示している。会場には各作品に対して作品解説が設置されているため、作品とあわせて読めば、田中が孤独や記録することに向き合った4年間が現前する。

会場風景より、田中良佑《降り積もる影》。4年間の活動の集積を見ることができる

いっぽう鷲尾怜は、会場の前の一般住居・岡村邸の庭を会場内に移動することを試みた。「オカモノヤカタ」として、2020年からアーティストたちの宿舎として利用された岡村邸。コロナ禍でそうした交流が途絶え、手入れが行き届かない状態になっていた岡村邸の庭掃除を鷲尾が提案。対して岡村は鷲尾の作品について提案をし、作者と作品の主体は曖昧になっていく。

鷲尾怜《for mi》の会場から見える岡村邸の庭。この庭を会場内へと移動させた
会場風景より、鷲尾怜《for mi》。会場各所には試行の形跡をたどるメモが置かれている

 

「風景泥棒」は京丹後エリアの海へ

釣り人で賑わう京丹後の海岸へ足を運べば、三津漁港荷捌き場ではBIENが、三津漁港冷蔵庫では石毛健太が作品を発表する。

BIENの作品《15》は、日本標準時刻と世界標準時刻であるイギリスにあるグリニッジ天文台の時刻が表示されている「最北子午線塔」の塔の時刻が15秒ずれていることから着想を得た作品。様々な人が太鼓で刻む体感の15秒と、厳密にプログラミングされた15秒間隔の鐘の音が天井から鳴り響き、素朴なリズムのずれがユーモアを誘う。

会場風景より、BIEN《15》。天井には15秒間隔で鐘を鳴らす時計と、人々が体感で15秒を刻むディスプレイが展示される

石毛は、元田重機業(株)織物工場の作品と同タイトルの《みえる》を発表。こちらではカメラオブスキュラの原理を用いて海の様子を小さな小屋の室内に写し出す。どちらの《みえる》も光を集める仕組みが用いられる。

会場風景より、石毛健太《みえる》に際してのメモ

こうして、実際に何かを盗むのではなく、アートを通じて「風景の見え方を変化させてしまう」という意味での「風景泥棒」。実際に京丹後の多様な風土を巡りながら、アーティストそれぞれが京丹後で盗んだ風景を鑑賞する構成になっている。

石毛健太によってカメラオブスキュラになった三津漁港冷蔵庫

 

機織りの街、与謝野

古来より織物業が営まれ、高級絹織物の丹後ちりめんが地域を支え発展させ、いまもなお機織りの音は途絶えることがない与謝野町。その与謝野にて、アーティストの尾崎ヒロミ(スプツニ子!)と串野真也とのコラボレーションから生まれたユニット「ANOTHER FARM」がインスタレーション作品《Boundaries》を発表している。

《Boundaries》では、クラゲの遺伝子を組み込まれた蚕からつくられる「光るシルク」を織り込んだ錦織で能装束を制作したもの。「ANOTHER FARM」はこれまでに同技術を利用したドレスを手がけてきたが、今回は日本由来の衣服となる。神と人が交わる時空間としての能と、「神の領域」や「神への冒涜」とも言われる遺伝子組み換えの技術が交差する本作は、人が科学技術によって飛び越えようとするBoundaries(境界)の存在と倫理性、魅力、危うさなどを考えさせられるもの。会場で配られるメガネを通して見れば、織りの模様をよりはっきりと見ることができる。

会場風景より、「ANOTHER FARM」《Boundaries》。会場ではドキュメント映像も上映される
メガネを通すとよりはっきりと模様が見える

各エリアは車で巡るのがおすすめ。次回レポートでは「ALTERNATIVE KYOTO もうひとつの京都」レポート(後編)として、福知山、南丹、八幡エリアを紹介する。

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