公開日:2024年2月29日

3月8日「国際女性デー」を機に見たい展覧会10選。女性作家の個展やフェミニズム、ジェンダーに関わる展覧会を紹介

女性の作家の個展や、フェミニズムやジェンダーについて考えるきっかけとなる企画展を紹介。

3月に開催されている展示からピックアップ

3月8日は「国際女性デー」。1904年、ニューヨークで婦人参政権を求めるデモが行われたことが起源となり、国連が1975年(国際婦人年)に制定した記念日です。女性の権利と政治的、経済的分野への参加、ジェンダー平等、女性のエンパワーメントの推進を盛り立てることを目的とするこの日をきっかけに、展覧会へ足を運んでみませんか?

女性のアーティストの個展や、ジェンダーやセクシュアリティ、フェミニズムなどをテーマに含む、3月に開催中の展覧会を紹介します。

「コレクション2 身体———身体」(国立国際美術館、大阪)

20〜21世紀を代表する美術家、ルイーズ・ブルジョワの作品《カップル》(1996)を国内初公開する本展。ブルジョワは様々な手法を通して、身体や母、治癒といったものを表現してきた作家だが、本展はさらにブブ・ド・ラ・マドレーヌのインスタレーション、石川真生の写真、鷹野隆大の写真、加藤泉の絵画など近年の新収蔵品を含む所蔵品を紹介する。「身体」は芸術表現において主要な主題であり続け、また、フェミニズムやジェンダー、クィアの視点からも重要なテーマだ。アーティストの実践から、こうしたテーマについて体感する絶好の機会だ。

会場:国立国際美術館
会期:2月6日〜5月6日

「豊嶋康子 発生法──天地左右の裏表」(東京都現代美術館)

会場風景 撮影:編集部

1990年から30年以上にわたってコンプチュアルな作品を発表してきた豊嶋康子。その全貌を紹介する初の美術館個展が開催中だ。豊嶋は、この社会で自明のことと思われている制度やルール、物の使われ方、価値観といったものを、自身の独自の視点や方法でとらえ直し、問い直してきたアーティスト。その作品からは、「社会」と「自己」がたんに対立するものではなく、干渉しあい、入れ子状態であるような、複雑な有り様を感じ取ることができるだろう。

会場:東京都現代美術館
会期:2023年12月9日〜3月10日

「ガラスの器と静物画 山野アンダーソン陽子と18人の画家」(東京オペラシティ アートギャラリー)

会場風景より 撮影:吉田歩

スウェーデン在住のガラス作家・山野アンダーソン陽子が発案したアートプロジェクト「Glass Tableware in Still Life」を紹介する展覧会。画家から山野に描いてみたいガラス食器をリクエストしてもらい、そのイメージを膨らませて山野がガラスを吹く。完成したら画家そのガラス食器を絵に描くというプロセスで生まれた作品たちからは、アーティスト同士の見事な競演を楽しむことができる。

会場:東京オペラシティ アートギャラリー
会期:1月17日〜3月24日

「フランク・ロイド・ライト 世界を結ぶ建築」展(パナソニック汐留美術館、東京)

クーンリー・プレイハウス幼稚園の窓ガラス 1912頃 豊田市美術館蔵

アメリカ近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライト。カウフマン邸(落水荘)やグッゲンハイム美術館、帝国ホテル二代目本館などで知られるライトを紹介する本展だが、見どころとして、最新研究による新たなライト像が示された興味深いセクションがある。「進歩主義教育の環境をつくる」という章では、ライトの施主、同僚、友人の多くを占めた女性たちや、フェミニストや専門家の女性たちとの協働に光が当てられている。ライトといえば女性とのスキャンダルが広く知られているが、こうしたイメージとはまた違う姿や、当時の先進的な女性たちの思想や仕事を窺い知ることができるだろう。

会場:パナソニック汐留美術館
会期:1月11日〜3月10日

「上映イベント 「日本の女性映画人(2)―1970-1980年代」(国立映画アーカイブ)

日本映画の歴史において、監督のみならず多様な職域で女性映画人たちが手腕を発揮してきた。2022年度に開催した「日本の女性映画人(1)―無声映画期から1960年代まで」に続き、今回は1970〜80年代に生じた映画界の構造変化の中で躍進した女性映画人たちを取り上げ、監督・脚本・製作などの分野に着目して、劇映画からドキュメンタリーまで計74作品を上映する。この時期は続々と女性が監督を手がけるようになり、作品の多様化が顕著になっていった時代。日本映画の転換期に新機軸をもたらした女性映画人たちの足跡を振り返ることで、日本映画史の再考につながる新たな視座が切り拓かれるだろう。

会場:国立映画アーカイブ
会期:2月6日〜3月24日

「第8回 横浜トリエンナーレ」(横浜美術館ほか)

ピッパ・ガーナー Human Prototype 2020 Courtesy of the artist and STARS,Los Angeles Photo: Bennet Perez

「野草:いま、ここで生きてる(Wild Grass: Our Lives)」をテーマに、様々なアイデンティティや属性、バックグラウンドを持つアーティスト94組が集う国際芸術祭。ジェンダーも重要な要素のひとつであり、たとえばアメリカ生まれのピッパ・ガーナーはトランスジェンダーで、自らの性移行をアート・プロジェクトとして公開するなど、既成概念にとらわれない多様性のあり方を社会に問う。広告が作り出す男女のイメージや消費社会に「生きづらさ」を感じてきた自らの経験をもとに作品を発表してきた作家だ。
ほかにも、第二次世界大戦後に炭鉱での労働や植民地支配、日本軍「慰安婦」などをテーマに絵画制作を行った富山妙子、具体美術協会のメンバーとして知られる田中敦子ら物故作家の展示も注目だ。

会場:横浜美術館
会期:3月15日~6月9日

「Tokyo Contemporary Art Award 2022-2024 受賞記念展」(東京都現代美術館)

中堅アーティストを対象とした現代美術の賞「Tokyo Contemporary Art Award(TCAA)2022-2024 」では、ジェンダーロールや再生産の問題を作品で扱ってきた2作家が受賞。その受賞記念となる本展では、サエボーグ「I WAS MADE FOR LOVING YOU」と、津田道子「Life is Delaying 人生はちょっと遅れてくる」という個展をそれぞれが開催。隣り合うふたつの展覧会は制作に対する関心もアプローチも大きく異なり、それぞれが独立したものでありながら、展示室内での鑑賞者のふるまいが作品の一部となるという共通点を持っている。鑑賞を通じて自身に向き合うことで、動物も含む他者との関係性や、社会から期待される役割などに目を向けることにもなるだろう。

会場:東京都現代美術館
会期:3月30日〜7月7日

三島喜美代 展(⾋居/⾋居Annex、京都)

三島喜美代 Work2003 (Newspaper) 2001-03 ⽇常ゴミの溶融スラグ、陶 写真:三島喜美代

1932年大阪府生まれの三島喜美代の個展が、⾋居と艸居Annexの2会場で開催。具象絵画から始まり、抽象絵画、コラージュ、エッチング、彫刻、陶⼤規模なインスタレーションなど多種多様な媒体を介して、⽇本の⾼度経済成⻑によって⼤量に消費されたゴミや、氾濫する情報社会への「恐怖感」や「不安感」を作品にしてきた。⾋居では、溶融スラグで制作した⼤型作品《Work2003 (Newspaper)》2点を中⼼に、新作の陶作品を展示。⾋居アネックスでは、平⾯作品《モノローグ》シリーズを5点展⽰する。

なお、個展「三島喜美代―未来への記憶」 が練馬区立美術館で5月19日から開催。こちらも楽しみに待ちたい。

会場:現代美術 艸居艸居Annex
会期:2⽉15⽇〜4⽉17⽇

ブブ・ド・ラ・マドレーヌ 「花粉と種子」(OTA FINE ARTS 7CHOME、東京)

ブブ・ド・ラ・マドレーヌ POLLEN AND SEEDS_002 2024 キャンバスにアクリル絵具 27.5×41.5 cm

1990年代にダム・タイプで活動し、その後はパフォーマンス、映像、テキストなど多様な作品を発表するとともに、HIV/エイズとともに生きる人々やセックス・ワーカー、女性、セクシュアルマイノリティなどの健康と人権に関する市民運動にも携わってきたブブ・ド・ラ・マドレーヌ。今回の個展では、両性具有の「人魚」と生殖、花粉のイメージを喚起させるインスタレーションと絵画を展示。現在のパレスチナ問題への応答にも目を向けてほしい。

会場:OTA FINE ARTS 7CHOME
会期:2月17日〜3月30日

「Advisory: Agata Słowak and Aleksandra Waliszewska:A Marriage of Heaven and Hell」(BLUM、東京)

左:Agata Słowak Your Own Personal (detail) 2023 右:Aleksandra Waliszewska Untitled 2023

ポーランドの出身のアガタ・スウォヴァクとアレクサンドラ・ヴァリシェフスカの2作家のアジア初展示。ウィリアム・ブレイクの「天国と地獄の結婚(A Marriage of Heaven and Hell)」をタイトルに引用した本展は、黙示録的なイメージに彩られ、人間が持つ過激さを喚起する絵画を描く2人のアーティストを紹介する。宗教、セクシュアリティ、女性の力、魔法、神話などをテーマに、象徴性に彩られた強い女性のイメージを描く、ふたりの作品に期待したい。

会場:BLUM
会期:3月23日〜5月2日

福島夏子(編集部)

福島夏子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集。音楽誌や『美術手帖』編集部を経て、2021年10月より現職。