公開日:2023年12月8日

渋谷、最新アートガイド。絶えず再開発が進む東京の中心街で、アートスペース10軒を訪ねる

代々木から出発し、駒場、渋谷を経て代官山方面へと抜けるルートで紹介

渋谷スクランブル交差点

ファッションや音楽、若者文化の街として知られ、近年は大型商業施設が数多く立ち並ぶ街、渋谷。ここ数年は100年に1度とも言われる大規模開発が行われており、渋谷駅周辺は各所で絶えず再開発が進んでいます。

今回はそんな渋谷周辺のアートスペースを紹介します。ルートは代々木八幡・代々木公園駅から出発し、駒場東大前駅を通って渋谷駅周辺というもの。1日ですべてを訪れるのは難しいという人は、気になるベニューをウェブ版でのログインTABアプリでフォローしておくのがおすすめ。アプリではそのベニューで開催される展覧会の開幕と閉幕を、プッシュ通知でお知らせします。

*都内のエリア別アートガイド記事の一覧はこちらをチェック

Vacant/Centre

「Vacant/Centre」は、代々木八幡・代々木公園駅のほど近くにあるアートスペース。2021年に、原宿から現在の場所へ移転しました。展示スペースはベージュを基調としており、和と洋が織り交ぜられたような穏やかな印象です。これまで、牧口英樹 「場所|現われ」マグダレナ・スクピンスカ 「Aftertime」といった展覧会を企画。後者はアーティスト・イン・レジデンスプログラムの一環として開催されたものです。

企画からグラフィックや展示空間のデザイン、展覧会設営までを手がけるのはスペースを主宰する永井祐介さん。作家と長い時間をかけて話し合い丁寧に作られた展覧会に、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

Vacant/Centre
マグダレナ・スクピンスカ 「Aftertime」展示風景

CONTRAST

同じく代々木八幡駅・代々木公園駅から歩いて数分の場所には、デザインスタジオ「IN FOCUS」が設立・運営する「CONTRAST」が。Vacant/Centreからは、小田急線の線路をまたぎ路地裏へ入ると辿り着けます。「Lounge」「Studio」「Gallery」の3つで構成される展示空間は、築45年の建物を改装していることから「再構築」がコンセプト。これまでに、ボグダン・サーレディアク 「Memory in Motion: 忍耐による建築」國本怜 「静雨」ルイジ・オノラ 「Absences」といった展覧会を開催してきました。若手作家を中心に、国内外のコンテンポラリーアートを幅広く発信しているスペースです。

CONTRAST
CONTRAST

日本民藝館

渋谷から少し迂回して、駒場方面へ向かいましょう。次に紹介するのは東京大学駒場キャンパスのすぐ裏手にある「日本民藝館」です。同館は民衆的工芸品=民藝の提唱者として知られる柳宗悦によって、1936年に設立された施設。木造の建築は柳が基本設計を手がけており、東京都指定有形文化財(建造物)に指定されています。近年は「聖像・仏像・彫像 柳宗悦が見た『彫刻』」「生誕100年 柚木沙弥郎展」「美の標準 —柳宗悦の眼による創作」といった展覧会を開催してきました。

柳が蒐集した所蔵品は、日本の民藝を知るうえで見ておきたい名品ばかり。作品はもちろん、その美しさを最大限活かすよう設計された展示空間にも注目です。

日本民藝館
日本民藝館

渋谷区立松濤美術館

駒場から渋谷駅方面へ。「渋谷区立松濤美術館」は、山手通りを渡ってすぐ、日本有数の高級住宅街に所在しています。外壁と屋根がファサードを際立たせる建築は、白井晟一の設計によるもの。外壁に使われている石は「紅曇石(こううんせき)」と白井が名付けた淡いピンク色の石が使用されています。
展覧会は年に4回の特別展、公募展とサロン展で構成。近年は「杉本博司 本歌取り 東下り」から「私たちは何者? ボーダレス・ドールズ」「装いの力―異性装の日本史」「白井晟一 入門」といった企画を開催しています。美術に限定されない、多様なテーマを扱っていることも特色のひとつです。

渋谷区立松濤美術館 撮影:上野則宏
渋谷区立松濤美術館 撮影:上野則宏

PARCO MUSEUM TOKYO

松濤美術館から東急百貨店を抜け、アパレルや飲食店が立ち並ぶ宇田川町に進みましょう。2019年秋にリニューアルオープンを迎えた渋谷PARCO内4階には、「PARCO MUSEUM TOKYO」があります。布施琳太郎 「新しい死体」折坂悠太 「薮IN」といった個展や、2020年から毎年開催されている「P.O.N.D.」といった展覧会を開催してきました。地下1階にはもうひとつのアートスペース「GALLERY X」があるほか、2階には「OIL by 美術手帖」「NANZUKA 2G」も。訪れた際は合わせて足を運んでみましょう。

東京都渋谷公園通りギャラリー

渋谷PARCOの向かい側、交差点を挟んだ場所には「東京都渋谷公園通りギャラリー」が。ここでは、アール・ブリュットの作品を多数見ることができます。アール・ブリュットとはフランス語で「生の芸術」を意味する言葉で、正規の美術教育を受けていない人たちによって制作された作品のこと。近年は「ディア ストーリーズ ものがたり、かたりあう」「モノクローム 描くこと」「語りの複数性」といった展覧会を企画してきました。

幅広い来場者へと開かれていることも同ギャラリーの特色のひとつ。QRコードでのオーディオガイドなど、会場では様々な情報保障が用意されているほか、ポッドキャストなどオンラインでも楽しめるコンテンツが多数あるため、訪れることが難しい人にもぜひチェックしてもらいたいギャラリーです。

東京都渋谷公園通りギャラリー
「ディア ストーリーズ ものがたり、かたりあう」展示風景

シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]

東京都渋谷公園通りギャラリーを出て右手すぐ、渋谷東武ホテルの地下2階には「シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]」があります。同スペースは、アートとデジタルテクノロジーを通じて人々の創造性を社会に発揮することを目的に、東京都と公益財団法人東京都歴史文化財団が2022年10月にオープンしたばかり。展覧会としてはこれまで、岩井俊雄ディレクション「メディアアート・スタディーズ 2023:眼と遊ぶ」MPLUSPLUS 「Embodiment++」などを開催してきました。

美術館やギャラリーと異なり、ラボ、スタジオなどを備えたスペースを備えているCCBT。そうしたスペースをクリエイターはもちろん、「シビック=市民」にも提供しています。トークイベントやワークショップを通じて制作過程を公開していることも特徴のひとつ。デジタルテクノロジーを用いた制作をテーマとする、多様なプログラムに注目です。

岩井俊雄ディレクション「メディアアート・スタディーズ 2023:眼と遊ぶ」展示風景
MPLUSPLUS 「Embodiment++」展示風景

SAI

神南エリアから山手線の高架下を通ると、右手には2020年にオープンしたMIYASHITA PARKが。「SAI」はその3階にあるアートギャラリーです。開廊以来、ヨーゼフ・ボイス「BEUYS Posters 2021」KYNE「KYNE TOKYO 2」石川竜一 「いのちのうちがわ」シャワンダ・コーベット 「Down the road」などの展覧会を開催してきました。

一般的なギャラリーと異なり、アパレルやレストランなどが入る複合施設の中にスペースを構えているSAI。ギャラリストの木村俊介さんは「アートに関心がある人もそうでない人も作品を目にするため、アートの可能性を広げていく場として、多くの人に影響を与えられる場だと考えています」と話してくれました。

シャワンダ・コーベット 「Down the road」展示風景
SAIAKUNANA 「右手に生き様」展示風景

宮下公園の交差点を挟んだ向かい、ヒューマントラストシネマ渋谷などが入るビルの地下1階にはイタリア発のファッションブランド・ディーゼルの店舗が。店内の奥に控えるのが、「DIESEL ART GALLERY」です。気鋭のアーティストやアヴァンギャルドな作品を積極的に紹介している同ギャラリー。近年はジョセフ・リー 「Pleasure in the Pathless Woods」岸裕真 「The Frankenstein Papers」JUN INAGAWA 「BORN IN THE MADNESS」といった個展を開催してきました。休館日は店舗自体の休業日のみなので、渋谷に出た際はふらっと立ち寄ってみるのもよいでしょう。

「“CANTINA” mograg VERSE」展示風景
JUN INAGAWA 「BORN IN THE MADNESS」展示風景 Photo by Miki Matsushima

東塔堂

最後に古書店「東塔堂」を紹介しましょう。場所はセルリアンタワーのある桜丘エリアを抜け、代官山駅とのあいだ、鶯谷エリア。美術、写真、デザイン、建築などに関する古本を扱っています。

展示が行われるのは、併設のギャラリースペース。展示の特徴についてスタッフの大和田さんは「古書店という特徴を活かせる展示を心がけています」とコメント。印刷物や本に関連した展示が中心です。近年は吉田直嗣 + 吉田薫 「cheren-bel『そうなる前と、そうなったずっと後。』」秋野ちひろ 「本と金槌」 林青那「KUROMONO」といった展覧会が開催されてきました。

展示もさることながら、近現代の古典とも言うべき図書を数多く揃えていることが本店の一番の魅力かもしれません。渋谷、代官山を訪れた際はぜひ足を運びたいアートスペースです。

秋野ちひろ 「本と金槌」展示風景
出版記念展 林青那「KUROMONO」展示風景

浅見悠吾

浅見悠吾

1999年、千葉県生まれ。2021〜23年、Tokyo Art Beat エディトリアルインターン。東京工業大学大学院社会・人間科学コース在籍(伊藤亜紗研究室)。フランス・パリ在住。