公開日:2022年3月5日

3月8日「国際女性デー」を機に見たい展覧会17選

金沢21世紀美術館の2展示や、田部光子、上野リチ、キャサリン・ブラッドフォードから若手作家まで、女性作家の個展やジェンダーについて考える企画展を紹介

「フェミニズムズ / FEMINISMS」会場風景

3月8日は「国際女性デー」。1904年、ニューヨークで婦人参政権を求めるデモが行われたことが起源となり、国連が1975年(国際婦人年)に制定した記念日です。女性の権利と政治的、経済的分野への参加、ジェンダー平等、女性のエンパワーメントの推進を盛り立てることを目的とするこの日をきっかけに、展覧会へ足を運んでみませんか? 女性のアーティストの個展やコレクティヴの展示、ジェンダーやセクシュアリティ、フェミニズムなどをテーマに含む、開催中の展覧会を紹介します。

「ぎこちない会話への対応策—第三波フェミニズムの視点で」
「フェミニズムズ / FEMINISMS」

金沢21世紀美術館
2021年10月16日〜3月13日

「ぎこちない会話への対応策—第三波フェミニズムの視点で」会場風景

金沢21世紀美術館で、フェミニズムをテーマにした2つの展覧会が同時開催中。ひとつはアーティストの長島有里枝がゲストキュレーターを務める「ぎこちない会話への対応策-第三波フェミニズムの視点で」展(レポート)。そしてもうひとつは同館学芸員の高橋律子がキュレーションする「フェミニズムズ / FEMINISMS」展だ(レポート)。1990年代以降のガーリー・カルチャーや第三波フェミニズムをテーマに、多様なアーティストが参加。「わたしはフェミニストじゃないと思っている人へ」と題した長島による展覧会のステートメントにあるように、本展は特定の属性に限らず様々な人に向けて開かれている。

田部光子展「希望を捨てるわけにはいかない」

福岡市美術館
1月5日〜3月21日

「第3回九州・現代美術の動向展」パレードでの田部光子、福岡市内、1969年2月25日

戦後の前衛美術集団〈九州派〉の主要メンバーとして活動し、《人工胎盤》(1961)をはじめ非常に早い時期からフェミニズム的な問題意識を作品で表現してきたアーティスト、田部光子(1933〜)。初期から現在までの活動を、作品と資料によって明らかにする歴史的な展覧会が田部光子展「希望を捨てるわけにはいかない」だ。表現を通してジェンダー不平等に意を唱え、権力批判を行ってきた田部の戦いは50年以上に及ぶ。現代を生きる人々をエンパワーメントする、破格の作家の回顧展。(レポート

「上野リチ : ウィーンからきたデザイン・ファンタジー」展

三菱一号館美術館
2月18日~5月15日

会場風景より、上野リチ・リックス《プリント服地[野菜]》(1955頃)

上野リチ・リックス(1893〜1967)はウィーン出身のデザイナー。ウィーン工芸学校を卒業後、ウィーン工房でテキスタイルを中心に活躍したが、建築家上野伊三郎との結婚を機に活動の拠点を京都に移す。第二次大戦後は、京都市立美術大学(現・京都市立芸術大学)で教鞭をとるなど、日本のデザイン教育にも大きく貢献した。「上野リチ : ウィーンからきたデザイン・ファンタジー」展は、そのデザイン世界の全貌を展観する世界初の回顧展。(レポート

「オルタナティブ! 小池一子展 アートとデザインのやわらかな運動」展

3331 Arts Chiyoda
1月22日~3月21日

会場風景より「中間子」エリア

1960年代以降の日本のクリエイティブ領域の黎明期を、コピーライター、編集者、クリエイティブ・ディレクターとして牽引した小池一子(かずこ)。「無印良品」の創設メンバーとしても知られ、その活動は様々な領域に及ぶ。美術館でもギャラリーでもない独自の活動を展開する日本初のオルタナティブ・スペース「佐賀町エキジビット・スペース」を創設するなど、アートシーンにも大きな影響を与えてきた。「オルタナティブ! 小池一子展 アートとデザインのやわらかな運動」は小池の仕事を総括するとともに、同時代の芸術家やクリエイターたちの軌跡にも迫る展覧会になっている(レポート)。小池は海外で活躍する女性の表現者たちを、いち早く出版や展覧会などを通して紹介してきた立役者でもある。

「ロニ・ホーン:水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?」

ポーラ美術館
2021年9月18~3月30日

会場風景より、《無題(「 必要なニュースはすべて天気予報から手に入れる。 」)》2018-2020 Courtesy of the artist and Hauser & Wirth Photo: Koroda Takeru © Roni Horn

箱根の森の中に佇むポーラ美術館で開催中の「ロニ・ホーン:水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?」は、シンプルに削ぎ落された形式の作品が人々を静謐な世界に誘う展覧会だ(レポート)。ロニ・ホーンは1955年生まれ、ニューヨーク在住。写真、彫刻、ドローイング、本など多様なメディアでコンセプチュアルな作品を制作。1975年から今日まで継続して、人里離れた辺境の風景を求めてアイスランド中をくまなく旅してきた。日本の美術館で初となる今回の個展では、近年の代表作であるガラスの彫刻作品をはじめ、1980年代から今日に至るまでの、約40年間におよぶ実践の数々を紹介する。

特別展「ポンペイ」

東京国立博物館
1月14日~4月3日

展示風景より、《書字板と尖筆を持つ女性(通称「サッフォー」)》(50〜79年)

ポンペイ出土の膨大な遺物を収蔵するナポリ国立考古学博物館の全面的協力のもと、東京国立博物館で特別展「ポンペイ」が開催中。壁画、彫像、工芸品の傑作から、食器、調理具といった日用品にいたる発掘品が多数展示される、“ポンペイ展の決定版”だ。出品点数は、日本初公開を含む約150点。「第2章 ポンペイの社会と人びとの活躍」では、ポンペイの街で暮らした女性たちにフォーカスする展示が一部ある。当時、女性たちの地位は相対的に低いものであったが、なかにはビジネスの才覚でのし上がった低い出自の女性も存在した。また、古代ギリシアの女性詩人である「サッフォー」という通称名で有名な女性の肖像画も出品。(レポート

ミロコマチコ 「いきものたちはわたしのかがみ」

横須賀美術館
2月11日~4月10日

ミロコマチコ 「いきものたちはわたしのかがみ」

ミロコマチコ は1981年大阪府生まれ。生きものの姿を伸びやかに描き、国内外で個展を開催する。デビュー作の絵本『オオカミがとぶひ』(イースト・プレス、2012)で第18回日本絵本賞大賞を受賞して以降、数多くの絵本を発表し、国内外の絵本賞や文芸賞を受賞している。近年は自然豊かな奄美大島へ住まいを移し、この地の伝統的な染色文化に触れるなど、新たな展開も。個展「いきものたちはわたしのかがみ」は「ミロコマチコとは何者なのか」をテーマに、近作・新作を中心とした絵画や絵本原画、書籍の装画や企業とのコラボレーションを展示すると同時に、奄美大島での暮らしや制作風景も紹介する。

「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」

森美術館
2月18日~5月29日

会場風景より「エリイ」の展示

2005年に結成されたChim↑Pomは、エリイ、卯城竜太、林靖高、水野俊紀、岡田将孝、稲岡求の6人によるアーティスト・コレクティヴ。様々な方法で社会に介入するプロジェクトを国内外で発表し、大きな注目を集めてきた。「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」は、Chim↑Pomのこれまでの活動を網羅的に見せる最大の回顧展。終盤にある「エリイ」というセクションは、メンバーのエリイにフォーカスした内容。そのなかには、デモ申請をしたうえで東京の路上で自身の結婚パレードを大々的に行ったり、最近では妊娠出産の経験をもとにエッセイを執筆するなど、ジェンダーに関する制度やイメージを問い直す表現が見られる。また本展はメンバーに子供ができたことなどをきっかけに、「くらいんぐみゅーじあむ」という託児所を美術館内に設置する試みも行っている。(レポート

キャサリン・ブラッドフォード 「Night Swimmers」

小山登美夫ギャラリー
2月19日~3月26日

[Image: Katherine Bradford "Swimmer At Dusk" 2021, 50.8 x 40.6 cm, acrylic on canvas ©Katherine Bradford]

79歳のアメリカのアーティスト、キャサリン・ブラッドフォードによる日本での初個展「Night Swimmers」。ブラッドフォードは2011年、69歳でグッゲンハイム・フェローシップ、米国芸術文学アカデミー賞を受賞し、17年76歳のときにフォートワース現代美術館で個展を開催。今年6月〜9月にはポートランド美術館で個展を開催予定など、近年大きな注目を集めている。絵画制作を始めたのは30代の頃から。政治家の妻として生活を支え、男女の双子を育てながら独学で抽象画などを描き始めた。離婚後はシングルマザーとなり、40歳になる頃にニューヨーク州立大学パーチェス校にて美術学修士号を取得。そのとき出会った同性のパートナーと現在も関係を続けている。アーティストとしてのキャリア開始は遅かったものの地道に活動を続け、60代の頃に描き始めた大きな海やボート、泳ぐ人、スーパーヒーローたちのイメージの作品が大きな評判を呼んだ。本展では約12点の最新作を展示する。

「project N 85 水戸部七絵」

東京オペラシティ アートギャラリー
1月13日~3月25日

[Image: Nanae Mitobe "Baron Pierre de Coubertin" oil, pigment, graphite, plaster statue, linen, wooden panel 200.0 × 125.0 cm 2021 photo: Atsushi Yoshimine]

水戸部七絵は1988神奈川県生まれ。粘土の代わりに大量の絵具を用いた塑像のような作品で知られる。本展のタイトルには、セクシュアル・ハラスメントやLGBTQ(性的マイノリティ)への偏見に抗議する言葉である「I am not an object」を掲げ、差別や偏見なく、他者という存在を全人格的に受け入れる作家の制作姿勢を示している。

「奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム」

東京都庭園美術館
1月15日~4月10日

Elsa Schiaparelli "evening cape" (1938) Collection of The Kyoto Costume Institute

「奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム」の起点のひとつとなるのは、ローマ生まれのファッション・デザイナーであるエルザ・スキャパレッリ。彼女はシュルレアリストたちと親交を結び、シュルレアリスムの潮流のなかで示された特異な感覚を、モードの世界に積極的に取り込んだ。またウエストを強調するシルエット、ショッキング・ピンクといった色合いなど、”フェミニン”なスタイルを提案。「奇想のモード」の系譜をたどる本展を見ながら、ジェンダーの視点からファッションについて改めて考えてみてはどうだろう。

「Punk! The Revolution of Everyday Life」

エル・おおさか
3月4日〜3月8日

[Image: Queercore]

日本国内を巡回し、大きな反響を読んでいる「Punk! The Revolution of Everyday Life」の大阪での展覧会。パンクは一般的に騒がしい音楽に派手なヴィジュアル、暴れる観客といったイメージを持たれているが、この系譜を辿ると見えてくるのが「相互扶助」「積極的自由」「自主管理」などの、他者および自己への倫理といった原理の通底だ。本展では、パンクがこれまで様々な社会問題に取り組んできた実践と批評性をとらえることで、現代アートとの親和性、さらには両者の相乗性について検討する。フェミニストによるアンダーグラウンドなパンク・ムーブメントである「ライオット・ガール」や、トロントのクィア・パンクスの下地を作った「クィアコア」の紹介も。

Sabbatical Company 「OR We are still chatting.」

TALION GALLERY
2月19日~3月20日

[Image: Sabbatical Company "Sabbatical Chart Map 02" 2021]

Sabbatical Companyは、杉浦藍、益永梢子、箕輪亜希子、渡辺泰子の4人により2015年に結成されたアーティスト・コレクティヴ。それぞれが異なる手法で活動しながら、個人の時間とは異なるスパンを確保し、見過ごされていた好奇心を対話を通して結びつける様々なプロジェクトを行ってきた。「OR We are still chatting.」は、コロナ禍以降、改めて「共に過ごすこと、その距離」について考えを巡らせてきたメンバーが、過去にコラボレーションしたことがあるミュージシャンの野内俊裕を招き、言葉が言葉として名指される手前のやりとりを、音楽の力とともに形にしようと試みるもの。

「The Clothesline with Sister」

渋谷PARCO 1F “COMINGSOON”
3月4日〜3月10日
Sister店舗
3月12日〜3月31日

「あいちトリエンナーレ2019」での「沈黙のClothesline」展示風景

フェミニスト・アートのパイオニア的存在であるモニカ・メイヤーが、1978年以来世界各地で開催している「The Clothesline」。これは女性への差別や抑圧、ハラスメントについて世に問いかけるもので、様々な人が匿名で用紙に書き込み、物干しロープ(clothesline)に吊るして展示する参加型アートプロジェクトだ。「あいちトリエンナーレ2019」では「沈黙のClothesline」として途中から展示内容を変更し、「表現の自由」を訴えた。
そして今年の国際女性デーに合わせ、セレクトブティック「Sister」がモニカ・メイヤーと国内でThe Clotheslineの開催を支援する団体「Our Clothesline with Mónica Mayer」の協力のもと「The Clothesline with Sister」を開催。The Clotheslineとのコラボレーショングッズを制作し、売上の一部はジェンダー関連書籍として図書館へ寄贈、その他の収益はOur Clothesline with Mónica Mayerの活動資金として全額寄付する。

「MAMスクリーン015: ルー・ヤン(陸揚)」

森美術館
2月18日~5月29日

[Image: Yang Lu "The Great Adventure of Material World - Game Film" 2020, Video, 25 min. 32 sec.]

1984年生まれのルー・ヤン(陸揚)は、中国出身、ミレニアル世代のアーティストとして注目を集める。3Dモデリングやモーション・キャプチャーなどの最新技術を駆使した映像作品は、ゲームやアニメといったサブカルチャーの表象を取り入れながら、身体やジェンダー、生と死といった問題にも言及してきた。「MAMスクリーン015: ルー・ヤン(陸揚)」ではゲーム上の仮想世界を舞台に現代の物質社会を考察する最新作《物質界の大冒険—ゲームプレイ動画》(2020)を中心に、制作ドキュメンタリーを含むラインナップでルー・ヤンの作品世界を紹介。

Nimyu「Invisible Ark; Where is the other shore you want to reach?」

TAKU SOMETANI GALLERY
3月5日~3月27日

Nimyu 「Invisible Ark; Where is the other shore you want to reach?」メインヴィジュアル

中国出身のNimyu(ニミュ)は北京の中央美術学院を卒業後、ニューヨーク・アカデミー・オブ・アート ⼤学院を卒業。ニューヨークでの個展をはじめオーストラリア、スイス、ロサンゼルス、ドイツで展覧会を開催している注目の作家だ。現在は東京を拠点に活動する。「Invisible Ark; Where is the other shore you want to reach?」は人物、動物、静物の3つを主な被写体とした「果実と葉」シリーズ、「不透明な波」シリーズ、「肉と骨」シリーズから構成。「果実と葉」シリーズは、美術史上の古典的な名画を引用しながら性的なテーマを扱い、公に議論・共有されない、意図的に隠されたメッセージを示唆する。

福島夏子(編集部)

福島夏子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集。音楽誌や『美術手帖』編集部を経て、2021年10月より現職。