3月8日は「国際女性デー(International Women’s Day)」。女性の権利やジェンダー平等について考える日として知られ、世界各地で様々な取り組みやイベントが行われている。
その起源は20世紀初頭の女性労働運動や参政権運動にさかのぼり、1975年には、国連が「国際婦人年」に合わせてこの日を国際女性デーとして制定。女性の社会参加やエンパワーメントを促進する国際的な記念日として位置づけた。また、アメリカやイギリス、オーストラリアなどでは、3月は「女性史月間(Women’s History Month)」でもある。歴史のなかで見過ごされてきた女性たちの活動や功績を再評価する月として、文化や教育の分野でも多くの企画が行われている。
ここでは2026年3月に開催されている展覧会のなかから、女性アーティストの個展や、フェミニズム、ジェンダー、セクシュアリティをテーマとした企画展を紹介する。日本、ロシア、そしてブラックカルチャーなど、多様な文化圏の視点から女性の表現を見つめる展覧会をセレクトした。
昭和を代表する写真家、土門拳が1930〜50年代に撮影した「女性たち」に焦点をあてた展示。戦後日本のあらゆる場面で従来の価値観が揺らぐなか、女性の社会参画の在り方は大きく変化し、写真に写る「表象としての女性」も移り変わっていった。土門が女性たちに向けた視線、彼女たちが社会に向けていた眼差し、そして現代を生きる私たちの視点といったさまざまな要素が交差した本展は、時代を超えて女性のまなざしを問い直す。また、同時開催の「土門拳の何んでも帖!」もあわせてチェックしたい。
会場:土門拳写真美術館
会期:1月30日〜4月12日
アムステルダムを拠点に活動するアーティストでありピアニスト、向井山朋子の個展「Act of Fire」が開催されている。音楽、映像、パフォーマンス、インスタレーションなど複数のメディアを横断しながら、身体や記憶、喪失、抵抗といったテーマを探究してきた。
本展のタイトル「Act of Fire」は、ジェンダー不平等や自然災害、終わりの見えない侵略など、現実世界の問題を「火」という根源的な力を通して捉え直す試みを示すものだ。会場では、作家自身の血で染めたドレスも展示され、生理を「恥ずべきもの」として内面化してきた記憶を問い直す作品として提示される。レポートはこちら。
なお、3月21日〜3月22日の2日間は京都芸術センターにて、向井山の新作パフォーマンス「WE ARE THE HOUSE」が上演される。2025年春に京都とアムステルダムで行われた《WE ARE THE HOUSE:サロン》をもとに構成・制作された本作は、必見だ。
会場:アーツ前橋
会期:1月24日〜3月22日
世界的に注目を集めるロシア人女性写真家、クリスティーナ・ロシュコワによる写真展。“魔法が解かれた”、“夢からさめた”という意味を持つ本展のタイトル「unbewitched/アンビウィッチド」は、高度経済成長を経た後の現在を生きる若い世代のタフなリアリティと、ファンタジーを提示している。少女や少年、恋人たち、セクシュアル・マイノリティへ深い親密さをもって向けられるロシュコワのまなざしを、空間全体で体験してほしい。
会場:PARCO MUSEUM TOKYO
会期:3月20日〜4月13日
奴隷制の時代から現代にいたるまで、芸術は黒人女性たちにとって、沈黙を破り、内なる声を表現し、自らの言葉で自己を定義するための重要な手段となってきた。本展では、アメリカを中心とする黒人女性作家やジャズ奏者による作品を紹介する。小説や詩、そして歌声や演奏に宿るブラック・フェミニズムの思想に触れることができる展示内容となっている。
会場:早稲田大学 国際文学館(村上春樹ライブラリー)
会期:2025年11月13日〜2026年4月19日
NMWA日本委員会は女性アーティストの支援を目的とする Museum of Women in the Arts(国立女性美術館)の国際プログラムと連動し、日本人女性現代美術作家5人の作品展を開催する。「A Book Arts Revolution」というテーマのもと、記憶、時間、社会構造、個人と歴史の関係性などを独自の視点で表現した作品が集う。参加作家は、入江早耶、風間サチコ、宮永愛子、村上華子、米田知子。ニュースはこちら。
会場:AND COLLECTION Contemporary Art
会期:3月4日〜3月29日
本展は、1980年代後半から2000年代初頭にかけて制作された英国美術に焦点を当てる企画。当時「ヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBA)」と呼ばれた作家たちによる、大衆文化、個人的な物語や社会構造の変化などをテーマとした独創的な作品を紹介する。なかでも、ジェンダーやセクシュアリティ、アイデンティティに関する伝統的な概念に挑戦する作品が目を引く。自らの性体験を映像で物語るトレイシー・エミンの《なぜ私はダンサーにならなかったのか》(1995)や、ジェンダー・バイアスへの批判を込めたサラ・ルーカスの《煙草のおっぱい(理想化された喫煙者の椅子II)》(1999)などからは、当時のイギリス社会が浮かび上がる。レポートはこちら。
会場:国立新美術館
会期:2月11日〜5月11日
和装から洋装へ移り行く過渡期に、ひとつの時代を彩った袴姿。男性的な装いとして非難を浴びた時期もあれば、「働く女性」の装いとしてジェンダーレスで活動的な衣服として支持された時代もある。さらに明治後半になると、袴はエリートの象徴として憧れの存在へと変わっていった。こうした変遷は、袴を取り巻く当時の女性の歩みやジェンダー観を鮮やかに映し出している。本展では、明治から現代までの絵画、写真、袴の実物資料などを通じて、その魅力と意義をひもとく。
会場:弥生美術館
会期:1月3日〜3月29日
本展は、国内外5組の作家(TARWUK、佐藤允、武田龍、平松典己、アナ・ベナロヤ)によるドローイング作品に焦点を当てたグループ展。制作の過程や思考の痕跡が色濃く表れるメディアとしてのドローイングを通して、各作家の表現に迫る。なかでもアナ・ベナロヤは、伝統的な女性像を問い直す作品で知られる作家だ。女性の視点や欲望、クィア的感覚を主題とした作品は、コミックやカートゥーンの影響を受けた鮮やかでグラフィカルなスタイルで描かれ、「女性らしさ」という概念に新たな視点を投げかけている。
会場:KOSAKU KANECHIKA
会期:2月21日〜4月11日
高木由利子は、英国のTrent Polytechnicを卒業後、ファッションデザイナーとして活動したのち、独自の視点から衣服や人体を通して「人の存在」を撮り続けてきた写真家である。本展では「ファッションとは何か」という問いをテーマに、世界各地で伝統的な衣服をまとい生きる人々の日常を記録したシリーズ「Threads of Beauty」から、精選された100点以上の作品が紹介される。
高木が追い求めてきた「格好良さ」は、アイデンティティの探求とも言えるものだ。国や文化を越えて人のあり方を見つめるその視線は、装いと自己の関係についてあらためて考える機会となるだろう。ニュースはこちら。
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム
会期:3月10日〜3月29日
ZINEとは、「個人または少人数の有志が非営利で発行する自主的な出版物」のこと。近年は各地で大規模な即売会が開かれるなど広く注目を集めているが、その起源を辿れば、社会の多数派に対してオルタナティヴな視点を発信するメディアとして、フェミニズムをはじめとするアクティヴィズムと深く結びついてきた歴史がある。本展は、そんなZINEとフェミニズムの関係に光を当てる企画だ。セレクターを務めるのは、ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジで美術史を学び、文筆・翻訳業のかたわらZINEをはじめとする自主出版活動に深い知見を持つ野中モモ。野中がセレクトした国内外のフェミニストによるZINE約50点に加え、貴重なプライベート・コレクションも展示される。
会場:港区立男女平等参画センター リーブラ
会期:3月1日〜3月16日
沖潤子は、古い布や道具が経てきた時間とその物語の積み重なりに、刺繍と作家自身の時間の堆積を刻み込み紡ぎ上げることで、新たな生と偶然性を孕んだ作品を発表してきた。本展で展示される作品はこれまでで最大規模となり、かつてない大きさと唯一無二の素材に向き合った新作だ。沖は「新旧の時間が抱擁し合っている」と語る。いくつもの時間が重なった刺繍の層から、自分だけの風景を見つけ出してほしい。
会場:KOSAKU KANECHIKA(京橋)
会期:3月7日〜4月18日
本展は、森美術館が3年に一度、日本の現代アートシーンを総覧する定点観測的な展覧会として、2004年以来、共同キュレーション形式で開催してきたシリーズ展だ。第8回目となる今回は、「時間」をテーマに21組のアーティストが参加した。出展作品には、絵画、彫刻、映像はもとより、工芸、手芸やZINE、さらにはコミュニティプロジェクトも含まれる。なかでも注目したいのは、1990年代前半にクィア女性アーティストコレクティヴ「fierce pussy」を結成した日系アメリカ人アーティスト、キャリー・ヤマオカの作品や、クィア・フェミニストのZINE出版とリサーチのプラットフォームであるMultiple Spiritsによる《ダンジョンは生ける光の陰影へ》(2025)だ。「時間」というテーマを通して、フェミニズムやジェンダーと不可分に結びついた政治性をあらためて問い直す機会となるだろう。レポートはこちら。

会場:森美術館
会期:2025年12月3日〜2026年3月29日
渋谷PARCOにて「BEYOND FEMALE GAZE 私たちの眼差しを再考する」展が開催される。本展では、アーティスト/Queer Ecology研究者であるマヤ・エリン・マスダをキュレーターに迎え、映画監督ニナ・メンケス、明治学院大学の映画研究者・斉藤綾子の協力のもと、多くの映画作品を紹介しながら、映像表現における「眼差し」を彼女の視点からとらえ直す。
男性が「見る主体」、女性が「見られる客体」となる映像の権力構造を批判する概念「Male Gaze(メイル・ゲイズ)」は、1973年にフェミニスト映画理論家ローラ・マルヴィが論考「Visual Pleasure and Narrative Cinema(視覚的快楽と物語映画)」で提唱した。本展ではこの議論を手がかりに、異性愛中心主義や家父長制への抵抗としての「Female Gaze(フィメール・ゲイズ)」の可能性を再考し、たんなる反転を超えた多声的な「私たち」の眼差しのあり方を探る。
会場:渋谷PARCO
会期:3月4日〜3月8日
化粧道具は、女性たちの日常に寄り添い、美しさや装いを支えてきた大切なアイテムであると同時に、当時の社会背景や技術の進歩を映し出しながら、女性のライフスタイルや自己表現の移り変わりを刻んできた。本展では、19世紀から20世紀にかけての西洋の化粧道具に焦点を当て、その美しさと機能性の変容を読み解く。各時代を象徴する化粧セットを中心に、パウダーボックス、香水瓶、鏡、ブラシ、マニキュアセットなど、装飾性と実用性を兼ね備えた品々が並ぶ。社会の変化が化粧文化にもたらした影響という視点からも楽しめる展示だ。また、同時代に活躍したピエール=オーギュスト・ルノワールやフェルナン・レジェによる、女性を描いた絵画も見どころのひとつ。
会場:ポーラ美術館
会期:2025年12月13日〜2026年5月31日
敗戦直後の女性解放や女性の社会進出の機運の高まりと呼応するように、1950〜60年代には多くの女性作家が活躍した。しかし、その多くは時代が下るにつれて美術史のなかで十分に語られなくなっていった。本展は、ジェンダー研究の視点から日本の戦後美術を再検討した中嶋泉の著書『アンチ・アクション』を手がかりに、当時の女性美術家たちの創作活動を見直す試みである。いわゆる「アクション」の時代に対し、別のかたちで応答しながら独自の抽象表現を展開した草間彌生や田中敦子を含む14名の作家をフィーチャーし、約120点の作品を紹介。半世紀以上を経た現在の視点から、彼女たちの実践を再考する機会となるだろう。これまでの巡回先レポートはこちら:豊田市美術館、東京国立近代美術館。

会場:兵庫県立美術館
会期:3月25日〜5月6日